じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 岡大・学生会館北側(南福利施設マスカットユニオン東側)の広場の大規模環境整備工事が完了した。なかなかのデザインであることは間違いないが、どういう使い方をするのかがイマイチ分からない。明日から始まるセンター試験のさい、受験生や保護者はこの場所をどう活用するのだろうか?


2014年1月17日(金)

【思ったこと】
14017(金)100分 de 幸福論(11)フロイト(4)

 1月15日の日記では、番組で
  • 人間は他の動物と違って本能が壊れている。
  • 動物は遺伝子情報に書き込まれた本能によって行動様式が決まっている。
  • 人間は本能は行動に結びつかず、欲動につながっている
と述べられた点について、「学習心理学や行動分析学に携わってきた立場から言えば、上掲の指摘は、科学的に見て誤っているように思う。」と批判的にコメントさせていただいた。本日はこの点について、もう少し補足させていただく。

 ここではとりあえず、行動様式を「Xという条件のもとでは、Yという行動が出現する」というパターンであるとしておこう。上掲の「動物は遺伝子情報に書き込まれた本能によって行動様式が決まっている」に合致する例としては、
  • ヒドラが触手に触れたミジンコをマヒさせる行動
  • クモが網にかかった獲物を捕らえる行動
  • セミの幼虫が地中から這い出して木の枝で羽化する行動
などがある。いっぽう、人間は、栄養のある食べ物に対しても好き嫌いがあるし、他者や国のために自分を犠牲にすることもある。よって、人間の行動は「本能によって行動様式が決まっている」とは言いがたい。この部分までは、番組で主張された通りといってよいだろう。

 しかし、人間だけが特殊な存在であると言ってよいのか?少なくとも、「本能によって決まる」というくだりに関しては、いくらでも反例を挙げることができる。

 まず、レスポンデント行動では、「Xという条件のもとでは、Yという行動が出現する」という時のXは、無条件刺激または条件刺激であり、Yは無条件反射もしくは条件反射がこれに該当する。1月15日の日記にも記したように、無条件反射の場合は、「X→Y」の関係は遺伝子情報に書き込まれた本能によって決まっているが、条件反射の場合、何がX(=条件刺激)になるのかは、経験によって決まり、かなりの任意性(arbitrary)がある。

 次に、オペラント行動の場合は、行動直後の変化(結果)までを考慮に入れなければならない。であるからして、「Xという条件のもとでは、Yという行動が出現する」は、「Xという条件のもとで、Yという行動をすると、Zという変化が生じる」という「X→Y→Z」の3項関係を考えなければならない。これがまさに三項随伴性である。そして、Xの所には弁別刺激、Yはオペラント行動、Zには、「好子出現」、「好子消失」、「嫌子出現」、「嫌子消失」といった変化が入る。このうち、最後のZに、食物、水、適温、性的刺激などの生得性好子や、痛みなどの生得性嫌子が配置された場合には「本能によって決まる」と言ってもよいが、好子や嫌子には経験を経て形成される習得性好子や習得性嫌子があることも忘れてはならない。人間のような動物では、コミュニティの中で作られる習得性好子や習得性嫌子が多種多様に存在するため、その分、本能が壊れていると思いがちである。

 また、「X→Y→Z」のうちのXには弁別刺激が入る。上掲のヒドラやクモの補食と異なり、XとYの関係は任意(arbitrary)であり、だからこそ、「青なら左、赤なら右ボタンを押す」という行動を、「青なら右、赤なら左ボタンを押す」に逆転させることもできるのである。

 もう1つ、Yに入る行動のリパートリーは、人間や動物それぞれの種類によって決まっている。人間はどうやっても自力では空を飛べないし、ネコがワンワン、犬がニャンニャンと鳴くことはできない。とはいえ、リパートリーに含まれている要素的な行動を複合させれば、さまざまな技を身につけることができる。但しそれも、人間だけに限定されるものではない。サーカスの動物ばかりでなく、自然界においても、動物は経験によって様々な技を身につけ、適応している。

次回に続く。