じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 台風18号は9月16日朝、愛知県豊橋市付近に上陸して関東甲信を通過したあと、東北の沖合に出て、21時に北海道根室市の南の海上で温帯低気圧に変わった。この影響で各地で被害が出たが、中でも驚いたのは、桂川が増水し、京都・嵐山では渡月橋付近が冠水している映像であった。この三連休に嵐山・大河内山荘庭園の新緑と紅葉のアルバムを移設したこともあって嵐山近辺の記憶が鮮明に蘇っていただけに、あの濁流には驚いた。写真は、昨年11月に渡月橋近辺を歩いた時に撮ったもので、緩やかな流れの中、水鳥がのんびり泳ぎ回っていた。大自然の猛威は本当に恐ろしい。一日も早い復旧を願うばかりだ。


2013年09月16日(月)

【思ったこと】
130916(月)高齢者における選択のパラドックス〜「選択の技術」は高齢者にも通用するか?(21)選択と後悔(15)後悔の事前回避(1)

 昨日の続き。

 第七章では、続いて、後悔が起こりそうな事態に接した時に事前回避をするための事例がいくつか紹介されていた。

 1つは、二者択一のコンフリクトに遭遇した時、実際に選ぶほうの選択肢をできるだけ好評価、選ばなかったほうの選択肢についてはできる限り欠点を見つけて低評価し、みずからの選択を合理化することである。イソップのすっぱい葡萄の合理化も(二者択一ではないが)同じような対処法と言ってよいだろう。

 こういう合理化は、傍から見れば非論理的で、負け惜しみと見なされることも多いが、当人がそれで満足しているなら別段とやかく言うものでもないとは思う。

 次に挙げられていたのは、後悔のリスクを伴うような選択肢を回避するという方法。後悔が嫌悪事象であるという意味で「Regeret Aversion」と呼ばれている。例えば、確実に100ドルを受け取るのと、コインを投げて確率50%で200ドルを受け取るのとどちらを選ぶかと問われると多くの人は確実な100ドルのほうを選ぶ。これは、第3章で解説されていたプロスペクト理論のカーブからも予測できるが、これに加えて、不確実な選択肢は後悔のリスクを含むという説明も可能である。これに関しては、いくつかの実験研究が引用されていた。
  • Zeelenberg & Beattie (1997). Organization Behavior and Human Decision Processes, 72, 63-78.
  • Zeelenberg et. al. (1996). Organization Behavior and Human Decision Processes, 65, 148-158.
  • Ritov (1996). Organization Behavior and Human Decision Processes, 66, 228-236.
  • Larrick & Boles (1995). Organization Behavior and Human Decision Processes, 63, 87-97.
 原典を入手していないので孫引きになってしまうが、要するに、「確実に100ドルを受け取る」という条件に「そのあと実際にコインを投げて、そちらの選択肢を選んでいたら200ドルが手に入っていたかどうかを確かめる」というような条件を付加したところ、「コインを投げて確率50%で200ドルを受け取る」というリスクを選ぶ比率が増えたという結果が得られているようである。数学的に考えれば、それぞれの期待値が100ドルであることは変わらない。しかし「あとで確かめる」という条件を付加すると、コインを投げる選択肢を選んでいたら200ドルが手に入ったかもしれないという後悔の可能性が付加され、どちらを選んでも後悔回避にならないことが、選択比率に変化をもたらしたと解釈されるのであろう。もっともそうは言っても
  • 「確実な100ドルか、コインを投げて確率50%で200ドルか」では、後者には1ドルも受け取れないというリスクがある
  • 「確実な100ドルを受け取ったあとでコインを投げる」における後悔は、100ドルを貰ったあとでの後悔なので、一文無しになったわけではない。
という違いがあるはず。実験研究では、このあたりのこともちゃんとコントロールしているとは思うが。

 もう一点、人々が常に後悔事象を避けるというなら、ギャンブル、特に、能動的な判断が効かないスロットマシーン、宝くじなどは、誰も好まなくなるはずである(←競馬では能動的な予想、パチンコでは玉を打つ時の技能が関与するので、純粋な確率現象とは言い難い)。おそらくそこには別の心理的メカニズムが働いているはずだ。あくまで推測だが、宝くじを買い続ける人は、「宝くじを買わなければゼッタイに当たらない」こと自体が後悔事象となっていて、宝くじを買うことでその後悔事象を避けようとしているようにも思える。ちなみに、私自身は、これまで一度たりとも、宝くじを買ったことが無いので、その購入心理を推し量ることはできない。


次回に続く。