じぶん更新日記

1997年5月6日開設
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 岡大の環境整備工事が進み、市道と敷地を隔てていた塀が撤去され、東西通り南側に広々とした通行スペースがほぼ完成した。


2013年07月25日(木)

【思ったこと】
130725(木)選択のパラドックスと選択の技法(6)追求者(maximizer)と選択の関係(2)

 昨日の日記で、追求者(maximizer)の行動特徴は必ずしも「選択」に限ったものではないと述べた。では、どういう部分で、選択と関わっているのだろうか?

 シュワルツの本の第4章の終わりほうに、このことに関連した「Does Choice Create Maximizer?(選択が追求者を生み出しているのか?)」という節がある。ここでは、

●選択肢の増殖(proliferation)が追求者を生み出しているのか?

という問いが投げかけられているが、シュワルツ自身は、これは憶測にすぎないと断った上で、選択肢の少ない文化圏のほうが追求者は少ないのではないか、また選択肢を絞る知恵などについても述べている。ちなみに、選択肢を絞る知恵は、アイエンガーの著作や講演でも提唱されている。「幸せの国」ブータンの人々も、少ない選択肢の中で満足者のライフスタイルを維持しているものと思われる。また、スキナーが幸福を
Happiness does not lie in the possession of positive reinforcers; it lies in behaving because positive reinforcers have then followed. 正の強化子【好子】を手にしていることではなく、それが結果としてもたらされたがゆえに行動すること」.....(訳は佐藤方哉訳、【 】は長谷川の補足、行動分析学研究、1990, 5, p.96)
と定義しているように、充実した生活は、どういう行動をするかを選ぶことにあるのではなく、質の高い好子が継続的に出現されるような形で行動が強化されていく中にあるものと考えられる。どの職業が自分に合っているかなどと迷っているよりも、家業での跡継ぎであれ、偶然のきっかけであれ、とにかく1つの仕事に打ち込んで、その中でその仕事の奥深さ、続けなければ分からないような特別の喜びを見出していったほうがよいのでは、という可能性は高い。

 もう1つ、「選択肢の増殖(proliferation)が追求者を生み出しているのか?」については、私はその可能性は低いと思っている。確かに選択肢が増えればそれで迷いすぎて時間を無駄にしたり、不必要な後悔にさいなまれる人がいるとは思う。しかし、シュワルツ自身が繰り返し述べているように、選択肢が増えすぎると逆にそれらを捨象し無視する人たちもいる。追求者になる人はむしろ、比較的狭い選択肢の中で、1つの目標や、右上がりのレベルアップ、あるいは累積的な成果に重きを置きすぎる人のことではないかという気がする。

 なお、明日以降は、日本行動分析学会第31回大会の話題を取り上げる予定。この連載は、ひとまずここで休止させていただく。