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第10回エコマネー・トーク


2001年11月22日(土)
東京都・アサツーティ・ケイ銀座オフィス




【思ったこと】
_11125(日)[心理]第10回エコマネートーク(1)21世紀のキーワードは「サスティナブル(sustainable)」と「ローカライゼーション(localization)」

 11月22日(木)の夕刻に行われた第10回エコマネー・トーク(主催:エコマネー・ネットワーク、会場:アサツーティ・ケイ銀座オフィス)の参加報告の1回目。今回のテーマは
  • 中島恵理氏(環境省):環境とコミュニティ〜あたらしいコミュニティと環境のあり方を考える サスティナブルローカライゼーション〜
  • 加藤敏春氏(エコマネー提唱者、経済産業省、東京大学大学院併任教授):各地の『エコマネー』の状況報告
  • アサツーティ・ケイEcotプロジェクトチーム:Ecotの紹介
となっていた。エコマネーについては、5月12日の京都心理学セミナーで、中山昌也・エコマネーネットワーク事務局長からお話しを伺ったところであるが、会の催しに参加するのは今回が初めてであった。

 最初の話題提供をされた中島恵理氏は、環境省の地球環境局地球温暖化対策課係長という要職にあられる方で、このネットワークの創設時からの会員であるという。肩書からのイメージで緒方貞子・前国連難民高等弁務官のような方を想像していたが、実際に現れたのは大学院生のようなヤングな方であった。中島氏は、今回の話しは勤務先の方針とは関係の無い個人的見解であると断った上で、いまふうの語尾上げ口調で熱っぽく議論を展開された。

 さて今回のキーワードは、「サスティナブル(sustainable)」と「ローカライゼーション(localization)」という2語からなる。

 このうち前者は最近ひんぱんに耳にする言葉だ。9/23に拝聴したユネスコ主催のシンポでも、「Education for a Sustainable Future」という資料が配付されていた。続く加藤敏春氏のpptスライドにもあったが、対数的上昇【←関数の形から言えば「指数」的ではないかという気もするが】を続けてきた人類は、いまや破滅するかソフトランディングして平衡安定するかの瀬戸際にある。21世紀に我々が求めるべきものは、無展望な右上がりの「発展」ではなく、むしろ「持続可能性」にある。どのようなイデオロギーであれ、経済体制であれ、「サスティナブル(sustainable)」は避けて通れない第一義的課題であると言えよう。

 もう1つの「ローカライゼーション(localization)」は言うまでもなく「グローバリゼーション(globalization)」の反対語である。といっても、ここでは両者を対立的・二者択一的にとらえるのではない。むしろ相互補完的なもので、いずれを欠いても「サスティナブル(sustainable)」も幸福も実現しえない。中島氏は両者について
  • グローバリゼーションの役割:共通の価値・取り組みに関心を持つ人々のネットワーク。地域での経験の普及・情報交換。
  • ローカライゼーション:地理的なコミュニティ。物、エネルギーの移動。自立したコミュニティ。
といった役割を説いておられた。そして、取り組みのステップとして
  • ステップ1:人と人とをつなげる、気づき、インセンティブ。
  • ステップ2:小さなプロジェクトの実施、刷新的プロジェクトの実験。
  • ステップ3:地域の実践から経済社会のシステムの変革
という3段階を構想し、それぞれの発展過程でエコマネーが大きな役割を果たすことを強調された。

 いまや、環境問題は、政府や自治体が音頭をとって住民を指導したり、法律で規制するだけでは成り立たないということなのだろう。主人公はあくまで地域のコミュニティにある。個々人が自分勝手にお役所に要求をしたり不平をたれているだけでは何も解決しない。住民自身が主体的・能動的に取り組む、その代わりお役所もちゃんとそれをサポートする。こういうボトムアップ型のシステムがぜひとも必要なのである。

 中島氏のお話の中でなるほど、と思ったのは、

●環境問題をコミュニティで解決することは、「がまん」を「楽しみ」に変える
●環境は地域経済の制約要因ではなく、地域経済を元気にするツールともなりうる

という発想である。個人が自分だけで環境問題に取り組もうとしても、モラル向上や我慢の呼びかけに終わってしまって限界がある。コミュニティの中での「協働」は人と人との繋がりを生み出す。

 かつてのムラ社会では豊作や無病息災がコミュニティ全員の最大の関心事であった。だからこそ、それらを願う村祭りが盛大に行われ、結果として人々の繋がりが活性化された。いまこれに代わるものといえば、環境問題以外にはあるまい。盆踊り、運動会、慰安旅行、形式的な歳末募金などを年中行事として行っても町内会は衰退するばかりだ。環境問題をメインにして地域一帯で取り組めば、必ずやその地域は「元気になる」はずだ。

 以上のお話しを伺った上で、心理学あるいは行動分析学がどのような役割を果たしうるかを考えてみた。
  • 上記のステップ1の部分の「気づき」や「インセンティブ」の部分は、行動もしくは行動随伴性の概念でより具体的に捉えることができるはず。
  • 地域の取り組みを具体的な行動に置き換え、何が強化因になるのかを考えることが大切。特に、環境問題の本質的な解決という行動内在的な結果と、エコマネーを通じてコミュニティが人工的に付加する結果の配分を考える上で行動分析的アプローチは大いに役立つはず。
といったところだろう。
【思ったこと】
_11127(火)[心理]第10回エコマネートーク(2)エコマネーの発展段階

 11月22日(木)の夕刻に行われた第10回エコマネー・トーク(主催:エコマネー・ネットワーク、会場:アサツーティ・ケイ銀座オフィス)の参加報告の2回目。今回は提唱者の加藤敏春氏(エコマネー提唱者、経済産業省、東京大学大学院併任教授)による

●各地の『エコマネー』の状況報告

について感想を述べることにしたい。

 加藤氏は、いつも話が長くなって事務当局に迷惑をかけていると前置きし、用意されたパワーポイントファイルのうちのかなりの部分を省略し、要点だけをかいつまんで強調された。

 加藤氏はまず、対数的上昇【←関数の形から言えば「指数」的ではないかという気もするが】を続けてきた人類は、いまや破滅するかソフトランディングして平衡安定するかの瀬戸際にあることをグラフで示した上で、
  • 人類を救う「エコライフ」
  • 情報とサービスは豊かに、モノとエネルギーは慎ましく!
  • 第3の社会:会社人間(貨幣経済)と家族(非経済)の間に形成される「個」(ボランティア経済)
  • エコマネーは善意の出会い系サイト
といったキャッチフレーズを披露された。

 エコマネーとか地域通貨というと、どうしても商店会が中心となって運営するボランティア評価型のスタンプのようなものが多いように思ってしまうが、加藤氏は下記の1.から3.への発展段階を構想しておられる。それは
  1. 相互扶助(交流):信頼の熟成
  2. 課題解決:介護保険制度充実、環境回復など目標設定のプロセス
  3. 協働:まちづくり全体の活動、繰り返しのプロセス、個人のライフスタイル、エコライフ
上記のうち、北海道栗山町の第1次や宝塚第2次が第一段階、栗山町の第2次が第二段階に発展を遂げているという。第二段階では「エコマネーを何のために使うのか」が鍵となる。そして第三段階こそがコラボレーションの段階、これは繰り返しのプロセスとなり終結することはない。

 このほか、エコマネーを活用することの効果測定にも取り組んでおられるという。効果の検証が客観的に行われれば自治体も積極的に取り組むようになるだろう。

 このほか、留意すべき点として、紙幣類似行為取締法について少しだけ言及があった。ひとくちに地域通貨と言っても、現金に換えたり商店でモノが買える通貨となるとこの法律にひっかかるらしい。もちろん地域通貨普及のために法律を変えることもできるだろうが、信頼関係とボランティア経済を基礎におくエコマネーはもともと異なる次元で使われるべきもの。ボランティア経済と貨幣経済は“車の両輪”として位置づけられるというのが加藤氏のお考えのようだ。




 以上、加藤氏のトークの中で特に印象に残った点をまとめさせていただいた。これらの構想を実現する上で行動分析はどのように貢献できるだろうか。

 まず、「行動随伴性」の概念を導入することでエコマネーがどのようにして行動を強化するのか、そのプロセスを明らかにすることができると思う。エコマネーについて初めて言及した昨年11月12日の日記でも取り上げたように、エコマネーは行動分析学的に言えばトークン経済システムにあたる。『行動分析学入門』(杉山ほか、1998年、産業図書)によれば、トークン経済システムとは

●コミュニティにおいて望ましい行動のマネジメントをトークンを使って行う仕組[p.162]

であり、同じ頁には「優れたトークン経済システムでは、トークンを交換できる期限が限定されていることが多い」など、エコマネーを連想させるような指摘もある。

 トークンが有効に機能するためには、それを強力な裏付好子とリンクさせること、また、なるべく多種多様な裏付け好子とリンクさせ「般性習得性好子」としての機能を高めることが必要になる。お金が強力な般性習得性好子になっているのは、衣食住や性的刺激など多様な生得性好子によって裏付けられているからである。

 エコマネーがお金と並立する般性習得性好子となるためには、何を裏付け好子とするのかが重要な課題となる。万が一それに失敗すれと、コミュニティの中での相互扶助や課題解決のための諸行動はうまく強化されなくなってしまう。

 次に加藤氏がすでに取り組みを開始されているという効果測定にも、行動分析は大きく貢献すると思う。このような効果は、参加者への満足度調査のようなものだけでは決して測れない。特に、上記のエコマネー発展第二段階以降となると、課題解決や協働につながる行動が確実に強化されているかどうかがポイントとなる。そのためには意識調査ではなく、具体的な行動がどれだけ活性化されているのかを測る必要がどうしても出てくるし、また、ただ導入前と導入後を比較するのではなく、ABAB反転実験計画のような実験的検証も必要になってくるだろう。

次回は、インターネットの効用についての私の質問内容を書く予定。
【思ったこと】
_11201(土)[心理]第10回エコマネートーク(3)インターネットとエコマネー


 11月22日(木)の夕刻に行われた第10回エコマネー・トーク(主催:エコマネー・ネットワーク、会場:アサツーティ・ケイ銀座オフィス)の参加報告の最終回。なおこのトークの公式記録はエコマネーネット・ワーク・サイトのこちらのページにあるので併せてご参照いただきたい。

 さて、今回は質疑応答の時間が長めに設けられていたので、私からも、さっそく、まだよく理解できていない点について質問をさせていただいた。内容は11/20の日記で記した、インターネットとエコマネーの関係に関するものである。文章にまとめると次のようになる。
 加藤先生の御著書を拝見しますと、繰り返しIT革命や電子商取引の意義が強調されていますが、生身の人間の交流を重視するはずのエコマネーとなぜ両立するのでしょうか。

 今回、中島先生のお話の中でグローバリゼーションに対して、「サスティナブル・ローカライゼーション(sustainable localization)」という概念が提唱されましたが、インターネットは地域での経験の普及・情報交換、あるいは「知恵のコミュニティ」を形成するというように、グローバリゼーションのツールとして有用であるように思います。電子商取引も基本的にはグローバルな通貨ではないでしょうか。

 また別の面から捉えますと、最近ではネットにのめり込む人、依存する人を多くみかけます。加藤先生のトークの中では、「第3の社会」の象徴として「ケータイ」が挙げられていましたが、これも主体的な「個」というより、受身的で依存度の強い人々を作りだしているようにも思えます。

 経済のバブルははじけましたが、インターネットの世界でも、何もかもネットに頼りすぎるというバブルが生じてくるように思われますが、いかがでしょうか。
というような内容であったかと思う(実際はメモも見ずにしゃべったので、もっとバラバラになっていた)。

 これに対する加藤氏のお答えを私なりにまとめてみると次のようになるかと思う。
  • ネットには二面性があることは承知している。
  • 電子商取引に代表されるグローバルな側面だけでなく、シリコンバレーに見られるように個人をエンパワーメントし地域を活性化するローカルな側面がある。
  • 地域における顔と顔とのつき合いは欠かせない。
  • エコマネーは、ネット上の数値の増減では表現できない。ちゃんとデザインした紙幣のように、物理的媒体でやりとりすることが大切。
 また中島氏からも、
毎回、直接顔を合わせる会議をしていたのでは、交通費も時間もかかりすぎる。ネットはそういう時の有用なツールになる。もちろん、たまには顔を合わせることも必要。
というようなお答えをいただいた。疑問に思っていた点はこれでほぼ解決できたと思う。




 トークの後の懇親会では、エコマネー実施団体の関係者、著名な市会議員、有名企業の社長さんなどともお会いし、たいへん有意義な交流をさせていただくことができた。このトークは、確か2カ月に一度ほど開催されていたと思う。時間の都合がつけば、次回もぜひ参加させていただきたいと思っている。