じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Y.Hasegawa

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[今日の写真] 四季咲きのラベンダー。紅葉の季節も、サザンカが咲く季節にも花をつけるところがスゴイ。





2月7日(木)

【思ったこと】
_20207(木)[心理]今年の卒論・修論研究から(4)夢ふくらむ3回生の発表会

 一年中でいちばん忙しい時期が続いている。今週は、各種会議に加えて、月曜日と水曜日に期末試験実施、木曜が3回生の研究発表会、金曜日は修士1回生の発表会、連休明けには、学士入学・転入学試験、修士課程後期試験、さらに卒論試問へと続いている。

 きょう行われた3回生の研究発表会は全部で15人。一人あたり15分程度、約4時間を要した。

 卒論生に比べると3回生はまだあと一年という余裕がある。まだまだ未熟で、何にも知らずに多変量解析に取り組んだ学生、「アメリカ人vs日本人」、「高齢者と若者」というようにやたら風呂敷を広げる学生などさまざまであった。この時期は、研究の厳密さよりも、自由にテーマを見つけ、やれるところまで自力で挑戦してみることのほうがスケールの大きい研究ができると思う。締切に追われて萎縮してしまう卒論生よりは遙かに明るい。発表会の最中のコメントで私が特に強調した点は
  1. 仮説検証などの厳密さにこだわるよりも、むしろ、生産性の高い研究をめざしてほしい。

  2. 平均値の有意差ばかりにこだわるな。全体としての有意差よりも、個体別にデータを眺めた上で何人があてはまるのかを検討すべき。例えば、
    個体内でA条件とB条件を比較したところ、10人中9人でAのほうが大きかったが、平均値の差は有意ではなかった
    というような考察をしている人がいたが、もともと五分五分になるものが、10人中9人に片寄るとなると、それが起こる確率は0.011であり有意になるはずである。ま、普通は対応のある分析をすればそういう乖離は起こらないはずなんだが。
    それと、仮に10人中2人だけで特徴的な傾向が安定的に生じたとしたなら、少数派として無視するのではなく、その2人の中ではなぜそのような差が生じたのかを詳しく分析すべきである。

  3. 「被験者数が少ないので有意差が出なかった(=被験者数をもっと増やせば有意差が出たはずだ)」という発想は必ずしも正しくない。有意差が出ない最大の原因は、操作した要因が無関係であったのか、さもなくば、個体差や個体内変動が大きすぎてその実験デザインでは効果を検出できない状況にあったと考えるべきだ。被験者10人で10%水準だったから、あと10人増やせば5%水準で有意になるなどと安易に考えると失敗する。

  4. 比較軸を設けて研究することは大事だが、「A VS B」というように大括りに分析するよりも、AやBという対象の中でどれだけ多様性を探し出せるかを考えたほうが情報的価値が高い場合がある。


 このうち1.の「生産性が高い研究」とは、その研究の成果をいろいろな形で発展させ活用できるということ。むしろ、「資源性が高い研究」と言ったほうがピッタリだったかもしれぬ。

 念のためお断りしておくが、「生産性が高い」と「応用性が高い」は別の話題である。基礎的研究においても、
  • 細かい要因の関与ばかりに目をとられ、いつまでたっても同じ枠組みの実験から抜け出せないような研究は生産的とは言えない。
  • 新しいテーマや方法を次々と生み出す研究は、生産性の高い研究である。例えば、錬金術は、ゴールドを作り出すことはできなくても、新しい知見や技術を生み出したという点で生産的であった。アポロ計画も同様。
 今回の発表に関して一例を挙げるならば、

●液晶画面で表示された文章と印刷された文章とどちらが読みやすいか

という問題設定よりも、

●電子ジャーナルや電子出版物を液晶画面から読む時、どのような付加的機能をつけると読みやすくなるか

という設定で研究を進めたほうが生産的であろうということだ。

※追記
上記の「生産性」は、フロアでのディスカッションについても言えると思う。個人的な疑問やひっかかりに対して説明を求めるだけの質問の生産性は殆どゼロ。その本人の研究計画に対して建設的な提言を行ったり、別の視点を提示するような発言は生産性が高い。少なくとも大学教員はそのような発言を出すように心がけなければならないと思う。



 それから、4.の「どれだけ多様性を探し出せるか」というのは、今回の発表に関して言うなら、例えば「中途で障害者になった人と、生まれつき障害をもった人」を比較するのも大事だが、「中途で障害」といっても障害の内容によって制約されている行動は多様であり、ひとくくりにせず、生き方にどれだけ多様性があるのかを見出していったほうが生産的な情報が引き出せるということ。

※追記
多様性を見出すということは、単に、「これもある、これもある」というデータの羅列ではいけない。多様性を簡潔に分類整理するためのツールを探るとともに、どのような行動原理(たとえば「行動随伴性」)によって生み出されているのか、説明を試みることが望ましい。

ま、とにかく余裕があると言っても、次の卒論締切まではあと359日