じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Y.Hasegawa

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[今日の写真] 神郷町の山の家で撮影した蛾のコレクション。写真1は「アカスジシロコケガ」。幼虫は名前の通り地衣類を食べるらしい。写真6はキシタバの仲間。それ以外は不明。どなたかお教えいただけければ幸いです。



8月12日(日)

【思ったこと】
_10812(日)[心理]セラピー(療法)について考える(2)心理学実験はセラピー(療法)の有効性の検証に本当に役立つか?/「笑顔」も証拠

 8/10の日記の続き。今回の連載では、心理学の実験的方法がセラピー(療法)の有効性の検証に本当に役立つかどうかについて、詳しく考えてみたい。この話題は、オーストラリア研修の報告の中で一度とりあげたことがある。その際には、特に、
実験的介入によりグループ間の平均値を比較する方法(=個体間比較)の問題である。薬のように明確な生理的作用をもたらす場合や理学療法のように身体機能回復の度合いが客観的に示される場合は別として、精神的な効果を狙ったようなセラピーにそのような万能性が期待できるものなのだろうか。実験群と対照群の間で有意差があったからといって、「誰にでも有効」という保証はない。100人のうち95人には有効であっても残りの5人には有害になるセラピーがあるかもしれないし、逆に、100人のうち95人には無効でも、残りの5人にはすぐれた効果を発揮するセラピーがあるかもしれない。画一的なやり方でグループの平均値を比較するよりも、それぞれの個体に合わせた、単一事例実験法の手続をもっと導入していく必要がある。
といった問題点があることを指摘した。しかし、仮に単一事例法を用いても、根本的な問題点、すなわち実験操作自体の妥当性や一般性についての疑義は解消されない。今回はこの点を詳しく見ていきたいと思う。

 心理学実験により「○○セラピー」の有効性を検証しようとする場合、いっぱんには
  1. あらかじめ何らかの客観的な生理指標を選んでおく。例えば、脈拍、血圧、瞬目、体温、α波、筋電図など。
  2. 上記1.で選ばれた指標についてあらかじめ測定を行い、実験群と統制群(対照群)にランダムに分ける。
  3. 実験群には「○○セラピー」を実施、統制群には何も実施しない。
  4. 再び、上記1.で選ばれた指標について測定を行う。その平均値に、実験群と統制群のあいだで有意な差があれば、「○○セラピー」は有効であったことが実証されたと考える。
というような典型的な手順を考えることができる。いちばんの問題は、これらの生理指標が単一の原因だけで変化しないということ、つまり、その測定値が有意に変化しても、精神的効果の証明には直ちにはならないという点である。

 例えば、ストレスが大きい時と小さい時では脈拍数に違いがあったとする。つまり

ストレス大→脈拍増加、ストレス小→脈拍減少

となることが確認されていたとしよう。あるセラピーを実施した群のほうが実施しなかった群よりも有意に脈拍数が少なかった場合、「セラピーはストレスを解消する効果があった」と言えるのだろうか。否である。

 なぜなら、脈拍数というのは、ストレスの大小だけで代わるものではないからだ。例えば100m競走をすれば脈拍は増える。富士山の頂上に立っても脈は減る。単に脈拍が減ったからといって、ストレスが解消したためなのか、酸素消費量が減ったためなのか、酸素吸入量が増えたためなのか、直ちには分からない。

 同じような問題は、他の生理指標すべてに言えることだ。

●ストレスが大きいと生理指標Aは増加する

という実験的証拠は、

●生理指標Aは増加しなかった(もしくは減少した)のはストレスが解消したためである

という証拠にはならない。それが成り立つのは、ストレスと生理指標Aの間に一対一の単調増加(減少)の関数関係がある場合に限られる。



 では、不安、ストレス、気分などを測る心理テストを実施した場合はどうだろうか。1つとの尺度として、妥当性や信頼性が検証されているならば、それを使うこと自体は問題ない。しかし、質問項目が増えればそれだけ回答負担が増え、そのこと自体が新たなストレスを生み出す恐れもある。

 また、「○○セラピー」実施後に、心理テストスコアが有意に変化したと言っても、それがどの時点の心的状態を示すスコアなのか、その状態がどれだけ持続するのかは定かではない。




 ところで、最近、TV番組で紹介された3つのセラピー: のいずれにおいても、痴呆症のお年寄りの表情の変化が、一目瞭然という形で紹介されていた。いずれの場合も、それまでは無表情もしくは不安げな表情をしていたお年寄りが、赤ちゃん人形を抱いたり、動物を撫でたり、昔の歌に調子を合わせている時に、今までになかった笑顔を見せたというのである。「笑顔」のような表情変化は客観的に測定しにくいため、心理学の実験的指標としてはあまり用いられてこなかったように思うが、上記の各種生理指標に比べればよっぽど説得力がある。いずれにせよ、日常生活場面での表情や行動を細かく記録し、実験条件を知らせない、独立した複数の観察者によって評価させることのほうが、被験者を実験室内に連れ込んで電極をいっぱいつけて測ったり、無味乾燥な質問項目に答えさせるよりも、はるかに妥当性、信頼性のある検証方法ではないかと思ってみたりする。次回に続く。
【ちょっと思ったこと】

カレイとヒラメの違い

 夕食時に見たNHK「クイズ日本人の質問」によれば、ヒラメとカレイには料理上の大きな違いがある。ヒラメはカレイの半分ぐらいしか脂肪分が無いため、焼くとパサパサになるというのが正解だった。なるほど、ヒラメを刺身、ムニエル、ソティなどで食べるのは、そういうワケだったのか。