じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Y.Hasegawa

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[今日の写真] 玄関の外でチリチリと鳴き声がするのでドアを開けてみたら、鉢の上にこんな虫がいた。図鑑で調べたところでは、ヤブキリではないかと思われる。



8月1日(水)

【思ったこと】
_10801(水)[心理]「臨床心理士」は学校の救世主か、心理学研究の多様性を排除する官業癒着の産物か(その5)「現場をなおざりにした、象牙の塔の中の密室審議」

 これまで取り上げてきたように、「臨床心理士」は、国家資格ではなく「財団法人日本臨床心理士資格認定協会」という民間の団体によって与えられる認定資格にすぎない。阪神淡路大震災や、つい最近の大阪での児童殺傷事件など、個々の有資格者の献身的な活動には頭が下がるが、制度上は次のような、看過できない問題が生じつつある。
  • スクールカウンセラーの業務を実質的に独占してしまい、「臨床心理士」の資格を持たない教育経験者、地域ボランティア、発達心理学や教育心理学の研究者を締め出してしまう恐れ。
  • 臨床心理士受験資格を得るための大学院として「臨床心理士の資格をもった専任教員4名以上、うち1名は教授」という指定制を設けていること。心理学教員の採用や専攻の新設にあたって「臨床心理士」が優先され、結果的に心理学の研究・教育の多様性が阻害される恐れ。
 こうした点が問題であると感じているのは私ばかりではない。心理学関連の学会で構成される「日本心理学諸学会連合(以下「日心連」と略す。補注参照)」でも重大な問題であると受けとめられており、文部科学省に対して検討を申し入れることが提案されたという。ところが、5月19日に行われた第5回理事会の記録によれば、その提案に対しては、賛成が25票、反対が13票で、「出席者の2/3以上の賛成」には1票不足し、可決には至らなかったと記されていた。

 私自身が疑問に思うのは、上記のような深刻な問題に対してなぜ13票もの反対があったのかという点だ。この会議の理事(あるいは代理)はいずれも、各学会の代表として出席しているはずである。近頃では、国会の審議内容も個々の発言に至るまで公開されている(たとえば衆院会議録参照)。今回の会議において、どういう学会が、どういう理由で反対したのか、発言内容を含めてきっちり公開する義務があると思う。また、今回の第5回理事会では、日本動物心理学会、日本行動計量学会、日本行動療法学会、日本交通心理学会など合計7名の理事が欠席したと記されている。学会の代表ということである以上、理事が個人的な都合で欠席する場合には代理をたてるのが当然であろうと思うが、何か特別の事情があったのだろうか。

 日心連第5回理事会記録には、上記の文部科学省への申し入れとは別に、「臨床心理士」の資格認定の元締めである「日本臨床心理士資格認定協会」と、日心連の代表による会合の報告も記されていた。会合は2001年4月6日に1時間半行われたというが
東【日心連】理事長による指定校制度の緩和(修士課程2年間から2年次1年間等の部分化、臨床心理士取得教官数の削減、バイパス制度の導入、スクールカウンセラーのオープン化等)、及ぴ基礎資格の導入等の提案に対して、協会側の具体的な回答は得られなかった。今後の会合については、長期的な展望に立った話し合いには応ずるとの協会側の回答であった。以上の案件については、日心連として今後も検討を続げていくことが了承された。
ということで具体的な進展は見られなかったようだ。「長期的な展望に立った話し合いには応ずる」との協会側の回答は、見方によっては、当面の具体的緊急課題については「今後の協議には応じない」という意味にもとれる。この問題についても、会合での発言内容をきっちり公開し、なぜ協会が具体的な回答を示さなかったのか、なぜ「長期的な展望」以外の話し合いに応じないのかをぜひ明らかにしてもらいたいところである。

 さて、今回の問題であるが、一般の心理学研究者には、いま何が問題となり、どういう話し合いが行われているのかは殆ど知らされていないように思う。本来、このように公益性の高い問題は、公聴会などを含めて広く現場から意見を聴取し、公開の場で決定すべきであるはずなのだが。上にも述べたが、せめて、衆院会議録なみの詳細な議事録を作り、ネット上で速やかに公開するというぐらいの姿勢が求められると思う。

 今回の連載ではもっぱら「臨床心理士」の資格問題を取り上げてきたが、心理学の資格問題はこればかりではない。統一資格(基礎資格、職能資格)をめぐっても、遅々として合意が得られない現状がある。これでは、「現場をなおざりにした、象牙の塔の中の密室審議」と批判されてもやむを得まい。次回は、この問題を取り上げたいと思う。



補注: 2001年5月19日現在で日心連に入会している学会は37学会(5/19にはさらに「日本青年心理学会」の入会が承認された)。各学会の会員数は130名から9621名までマチマチ。会員1000名以上の学会は
  1. 日本心理臨床学会 9621名
  2. 社団法人・日本心理学会 6245名
  3. 日本教育心理学会 約6000名
  4. 日本カウンセリング学会 3931名
  5. 日本特殊教育学会 3662名
  6. 日本学校教育相談学会 3090名
  7. 日本発達心理学会 2450名
  8. 日本社会心理学会 1559名
  9. 日本箱庭療法学会 1511名
  10. 日本健康心理学会 1504名
  11. 日本行動計量学会 1026名
  12. 日本応用心理学会 1023名
  13. 日本犯罪心理学会 1007名
  14. 日本産業カウンセリング学会 1002名
ちなみに、各学会から選ばれる理事は、代表者(理事長や会長など)が1名、これに加えて1000名以上の学会からは1名、4000名以上の学会からは2名が推薦される。
【スクラップブック】

ペットの高齢化

 8/2朝6時台のNHKニュースによれば、ペットも高齢化が進む。イヌの52%、ネコの48%が7歳以上だという(調査地域、対象は聞き逃した)。