じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Y.Hasegawa

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[今日の写真] 梅の木の枝に、アワビを裏返しにしたような奇怪な生き物が大量に付着しているのを発見した。卵なのか、サナギなのか。どなたかお教えいただければ幸いです。



7月31日(火)

【思ったこと】
_10731(火)[心理]象牙の塔と現場心理学(番外編)「臨床心理士」は学校の救世主か、心理学研究の多様性を排除する官業癒着の産物か(その4)スクールカウンセラー活用調査研究への疑問

 オーストラリア研修旅行などの話題を取り上げたため、長期間にわたり中断させてしまったが、6/16に引き続いて、臨床心理士やスクールカウンセラーをめぐる資格問題について考えてみたい。

 スクールカウンセラー配置に関して、これまでの日記の中で特に強調したのは
「臨床心理士」が「児童生徒の臨床心理に関して高度に専門的な知識及ぴ経験を有している」ことは認めるとしても、学校問題の解決を彼らだけに委ねてしまってよいものだろうか。長年教育に携わってきた元教員、地域で青少年の育成に貢献してきたお寺の住職、ボランティア活動家などは、臨床心理士の認定を受けていなければ差別的な扱いを受けることになりかねない。
という問題点であった。

 このことに関連して、その後、「スクールカウンセラー活用調査研究」の「調査研究結果の概要」という資料を入手することができた。この調査は、「平成7年度より、臨床心理士など、臨床心理に関して高度に専門的な知識・経験を有する外部の専門家を学校に配備し、児童生徒へのカウンセリング及び保護者や教員に対する助言を行う」事業の「成果」を報告したものである。公的な補助を受けている事業なので、おそらくネット上でもきっちりと公開されているのではないか(←もし公開されていないとすれば直ちに情報公開を求めるべき性質のものだ)と思うのだが、現時点ではサイトを発見することはできなかった。

 この報告書は、結論的に、スクールカウンセラー(実質的に「臨床心理士」)を配備することの成果を強調した内容になっているが、「概要」であるとは言え、根拠となるデータの提示の仕方、そこから導かれる結論はあまりにも大ざっぱであるとの印象を否めない。



 この調査では、臨床心理士、精神科医、心理学系の大学教官(←「教員」とすべきだろう)など外部の専門家をスクールカウンセラーとして学校に配置することにより、どのような効果がもたらされたのかが検討されたという。その効果としては、「専門性」と「外部性」の2つが挙げられているが、ここでは紙面の都合で、前者についての記述部分にのみを一部引用させていただく。まずは要約部分。
1. 専門性

 スクールカウンセラーの臨床心理に関する高度な専門性に裏打ちされた受容の態度によって、子どもたちの中に自分を理解してくれているという安心感が芽生え、その結果、自らを真撃に振り返り、自己解決しようと努力するようになる.
 また、スクールカウンセラーがコンサルテーションに関して高度な能力を有していることから、児童生徒に対する指導の進め方について、教員がコンサルテーションを受けることにより、子どもたちと接する際の意識が変わるとともに、教員一人一人が自信を持って指導にあたることができる。
 さらに、保護者にとっても、カウンセリングを受けることにより、子どもの問題行動等に対して心理学的側面からの理解と受容を深めることができ、その結果、精神的な余裕を持って対応できる。
 報告書では、さらに児童生徒、教員、保護者についての詳しい記述があるが、紙面の都合で、ここでは児童生徒に関する記述のみを引用させていただく。
【児童生徒】
  • 暴力行為等の問題行動を起こしていた児童生徒に対し、スクールカウンセラーがカウンセリング等によって信頼関係を築くなどにより、問題行動が解消された。
  • スクールカウンセラーが児童生徒の立場に立って、悩みや苦しみ、心情を理解するといった共感的理解を示してくれることから、児童生徒が安心して自己の心情を吐露するようになった。
  • スクールカウンセラーが、児童生徒の考えや行動を批評しないで、全面的な受容の態度をもって接することから、情緒的混乱が取り除かれ、精神的に安定し、自己洞察力を深め、その結果、自分の力で望ましい生き方についての方向性を見出すようになった。
 これらの「まとめ」は、いったいどんな根拠に基づいて結論づけられたのだろうか。文面を拝見する限りは、「実施前に、当初の見込みとして期待されていたこと」、たとえば「問題行動が解消されるであろう」と期待されたことを、単に「解消された」と「過去形」に置き換えただけとしか言いようのない、自画自賛的な文章になっている。
  • いやしくも「効果」を実証するのであれば、スクールカウンセラーとして(1)「臨床心理士」が配置された場合、(2)「それ以外の専門家」が配置された場合、(3)教育経験豊富なボランティアが配置された場合、(4)誰も配置されない対照条件、というように細かく条件を分けた上で、どのような違いが現れたのかを客観的に示す必要がある。この報告は、もっぱら(1)の条件のもとで、よくなったと認められる点だけを列挙しているにすぎない。
  • 報告書ではいろいろな成果が強調されているが、いったい誰から寄せられた評価なのか明記されていない。スクールカウンセラーとして配置された人の自画自賛的申告なのか、教員の評価なのか、問題行動を起こしていた生徒の感想なのか、これらを分類せずに列挙しても信頼性は得られない。
  • 報告書では、「スクールカウンセラーの臨床心理に関する高度な専門性に裏打ちされた受容の態度」、「暴力行為等の問題行動を起こしていた児童生徒に対し、スクールカウンセラーがカウンセリング等によって信頼関係を築くなどにより、問題行動が解消」というように、問題行動そのものを弱化するのではなく、もっぱら「受容」や「信頼関係の構築」によって成果が挙げられたと結論づけている。臨床心理の一技法として「受容」が大切であることは否定しないが、今回の調査の中で本当にそのことが効果を挙げたと実証できるのだろうか。
  • いくら「受容」、「受容」と言っても、基本的なルールを守らず、他者に迷惑を及ぼす行為は厳しく罰せられなければならない。そういうことをちゃんと教育したのだろうか。
  • スクールカウンセラーとの面談を拒否し、学校の内外で非行や暴力行為を繰り返すような生徒に対してもちゃんと対応できたのか。面談に応じるような一部の「素直な」子供たちだけに限定した「成果」ではなかったのか。
公費を投じてスクールカウンセラーを配備し調査研究を行っている以上、こうした疑問について、ちゃんと答えてもらいたいものだと思う。

次回は、心理学界の「心理士」統一資格問題、日本心理学諸学会連合(日心連)の対応の脆弱さについて意見を述べたいと思う。


[※8/1追記]関連リンク
【ちょっと思ったこと】

英語でガーデニング

昼食時に、NHK教育「英語でガーデニング:第1回“Make a design〜英国ガーデンのデザイン術”」という番組の再放送をやっていた(本放送は19時30分)。単なる英会話教室と異なり、英国庭園を訪れた時の挨拶の仕方や、ガーデニング特有の表現を学ぶというところが、テーマ性があってよかったと思う。それにしても本場イギリスの庭園は凄い。5つのテーマ(rose、kitchen、Mediterranean、herb、bulue & yellowという5つのテーマをもつ1200坪の庭園にも驚いたが、こぢんまりした裏庭もなかなかよかった。いずれ園芸療法の研修ツアーなどあれば参加してみたいと思っている。



ファイナルファンタジー

 夕食時に見た「和風...」という番組で、映画「ファイナルファンタジー」の制作秘話を取り上げていた。米国では、打ち合わせの翌日でも平気で辞めてしまうスタッフがいるというのは驚きだ。辞めることで協同作業が遂行不能になった場合でも、損害賠償の権利は生じないのだろうか。余談だが、出演者の鴻上さんが、CGに関連して「自分のHPを見たという人からEメイルをもらってハワイに行ってきた」などと語っていたが、ハワイに住む方と言えば.....?
※8/1追記] ハワイのShiroさんから情報をいただきました。いつもありがとうございます。
皆がみな、そんなにドライなわけではありません…

一般論として、雇用契約上、予告無しで辞める/辞めさせることが可能とされていれば(別に珍しくはありません)、突然辞められても法的手段は取れないと思います。契約が「プロジェクト終了まで」などとなっていれば契約不履行ということになりますが。

もっとも、心情的にはきちんと引継ぎをした方が良いことは言うまでもなく、そうする人が大多数です。人材の流動が激しいので、いつかまた一緒に仕事をするかもしれませんし、気持ち良い関係を保っておくに越したことはないです。