じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Y.Hasegawa

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[今日の写真] 瑠璃玉アザミの一種。昨年旅行したカラコルムハイウェイの沿道にも似た花が咲いていた。こちらのアルバム参照。後ろの黄色い花はルドベキア。



7月20日(金)

【思ったこと】
_10720(金)[一般]がん集団検診は信頼できないか

 1日前になるが19日の夕刻にNHKのクローズアップ現代で、「がん検診・安心の落とし穴」という話題を取り上げていた。番組サイトにも記されているように、市町村によるがん集団検診で「異常なし」とされながら、直後に進行したがんが発見されるというケースが後を断たない。その見逃し率(偽陰性率)は、胃がんで1割、肺がんで2割に達するという。つまり、検診後に「異常なし」という葉書を受け取っても安心の証拠にはならないということだ。10数年前の話になるが、私の実母もこれに含まれる。実母はその年の春の検診では異常なしと判定されたものの、秋に精密検査を受けた時点では進行性の胃癌が肝臓に転移しておりもはや打つ手無しと診断され、結果的に入院後45日目に亡くなった。

 検診のミスが、技術的な限界にあるというなら諦めもつくのだが、実際には、時間とコストの関係で、見逃しが起こりやすい背景があるようだ。番組によれば、検査現場では、異状のありそうなレントゲン写真は比較読影(同一人の過去の写真と比較し、変化を読み取る)に回されるのだが、この作業は時間とコストがかかる。そのような検査にまわす比率を意図的に1%以下に抑えているところもあるらしい(←長谷川の聞き取りのため不確か)。

 航空機の制御装置など、人の命にかかわる精密機器の場合は、とことん調べ尽くし、コストがどうあれ、少しでも異常の疑いのあるものには安全宣言を出さないだけの配慮がなされているはずだ。ところが、一個人の生死に関わるかもしれない検診が、かなり高めのリスクを容認した大ざっぱな作業の中で判定されていくというのは、非常に恐ろしいことである。
  • 「異常あり」と判定され精密検査で何もなかったという例は、「めでたしめでたし」ということになる。じっさい私も過去2回ほどバリウム胃検診で異常の疑いがあり、胃カメラで初めて安全確認を出してもらったことがあった。胃カメラは相当のストレスであるし、検査前は「もし癌だったらどうしよう」という不安に悩まされるものの、結果的に「大丈夫です」と言われれば、検診の「誤判定」を恨むことは決してない。
  • それに対して、「異常なし」とされながら、直後に進行したがんが発見される例は、上にも述べたように大変な不幸を招くことになる。
 もっとも、今回の番組では取り上げられていなかったが、「異常あり」と判定され、早期の治療に成功したという人も多いはずだ。早期とは言え癌にかかって喜ぶ人は居ないので感謝の言葉を忘れがちであるが、これこそが検診の本当の目的なのである。つまり、本当のところは
  • 「検診で異常なし」→喜ぶ人は多いが、本来は「検診を受けたのはムダだった」と解釈すべき。
  • 「検診で異常あり」→早期治療に成功。この時にこそ「検診を受けておいてよかった」と感謝すべき。
  • 「検診で異常あり」→すでに手遅れの末期癌。検診技術としては「成功した」と評価されるかもしれないが、受診者にとってはムダ。もし末期癌しか発見できないような集団検診であるのなら実施する意味がない。
と考えるべきであろう。



 番組の後半では、東京都中野区が、一部の検診の委託先を医師会から民間の検査機関に変更した、という事例を紹介していた。これにより、コストは、医師会委託時の半値になったという。また、従来通り医師会に委託を続ける乳ガンと子宮癌検診についても、交渉により、これまでより2割安く設定され、乳ガンでは、精度の高いマンノグラフィを導入することになったという。

 この部分は地元医師会が改善努力に取り組んでいる事例として紹介されたようであったが、私には、地元医師会が検診の実施にいかに強い発言力を持っているかを見せつけている事例であるように思えた。おそらく多くの自治体は、地元医師会の御機嫌を損ねるような改革はできない状況にあるのだろう。このあたり、専門家集団としての医師会が、検診業界団体の1つとしての医師会を兼ね、業務を独占しがちであるという点に構造的な問題があるように思えた。

 以上の番組から、素人なりに改善点を考えてみると:
  • 少なくとも大都市にあっては、複数の検診業者に競争原理を導入し、そのうちのどれを選択するかを住民自身に任せるような自由化をはかる必要がある。もちろんその前提として、検診業者の過去の見逃し率(偽陰性率)や早期発見成功率は、第三者機関によって評価を受け公表しなければならないものとする。
  • こうした検診業務には、生命保険業界が参入してもよいと思う。検診の見逃し率(偽陰性率)を最小に抑え、早期発見成功率を高めることは、保険会社の利益にかなうことになるからだ。
  • 検診技術は、癌を治療する技術とは異なる。医師免許を持った人に高額の委託費を投じるよりも、画像解析を専門とする検診技師の資格を創設したほうが人的コストの削減につながるし、精度の向上にもつながると思う。副収入源が奪われるとして反対する医師も出てくるかもしれないけれど....。
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