じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Y.Hasegawa

7月のインデックスへ戻る
最新版へ戻る
[今日の写真] 新鉄砲百合。種を蒔いた翌年に開花する百合として知られているが、ここにあるのは、7〜8年物の植えっぱなしの球根。



7月13日(金)

【思ったこと】
_10713(金)[心理]しごと、余暇、自由、生きがいの関係を考える(18) 会社ストレスと効率至上主義の果て

 今週のNHKにんげんゆうゆうで「会社ストレス」の話題を取り上げていた。
  • 7/ 9(月) 検証・社長の死
  • 7/10(火) 職場を逃げ出したいとき
  • 7/11(水) 女性にやさしい職場のすすめ
  • 7/12(木) 頼れる産業医を
これらのうち、再放送などを通じて実際に見られたのは7/10と7/12の分であったが、効率至上主義が個々の人間に深刻なストレスを与えている現状がよく分かった。本当の「効率」とは何か、についてもいろいろ考えさせられる所が多かった。



 7/10放送分の「職場を逃げ出したいとき」では、番組サイトにあるような事例がいくつか紹介されていた。記憶に残ったものをいくつか挙げてみると
  • 製造現場で働く54歳の女性。家に帰っても夕食を作る気力が出ない。
  • 親指が動かなくなる。
  • 開発設計の現場:残業にくたびれた若い技術者が夜中に床に大の字になって大声で叫ぶ。
  • 営業担当:「注文をもらったのに手配していない」という夢でうなされる。
  • 「座るのはムダ」として長時間の立ち作業に従事した結果、足腰に障害。
  • 潰瘍が無いのに胃腸が痛む。胃腸が激しく動くことによる神経性の痛みであり、いわば「胃腸の叫び」。
となる。出演した千田忠男・同志社大教授(労働科学論)によればこうした背景には、ジャスト・イン・タイム型の「短納期、多品種、少量生産」の体制がある。動作、待ち時間、運送のムダを徹底的に省こうとした結果が、過度にストレスを与える労働環境を作ってしまった。

 産業革命の昔ならともかく、労働者の権利が保障されているはずの現代になぜこのような酷使がまかり通っているのか不思議な気もするが、どうやらその根底には、「他の企業に負けていられない」とか「職を失うことへの恐怖感」といった「〜しなければ好子が失われる」という「阻止の随伴性」の強力な支配があるように思えた。
  • 営業の男性が言っておられたように、在庫を作らない生産体制のもとでは、納期の短縮をめぐる企業間の競争が激化する。かつては月単位だった納期が、今や「週」や「日」、さらには時刻まで指定されるようになる。納期7日に対してライバル企業が5日に短縮すれば、我が社は今度は3日にというように際限ない競争が繰り広げられる。
  • 製造現場の女性も言っておられたように、コストダウンの競争も同様。ライバル企業とのイタチごっこに陥る。
  • 製品の最終試験の現場では、「今日中に問題を解決してほしい」との要請が出され、中間管理職立ち会いのもとで残業の日々が続く。
 現場の声としても上がっていたが、徹底的にムダを省くという効率化は、人間をロボットの部品のようにしてしまう。右手だけで使っていないと、左手にも作業をさせるように「効率化」させる。両手がふさがっていれば今度は足を使わせるというわけだ。この連載(まとめファイルはこちら)でも繰り返し指摘しているように、
  • 人間はどういう行動随伴性のもとで生きがいを感じるのか
  • ストレスを与えずに行動を強化するためには、何が必要か
を原点に置いて効率化を進めなければ、結局は企業自体が多くの病人を抱え、労災に絡む多額の賠償金を支払うハメに陥ることになるだろう。




 もう1つ、7/12放送分の「頼れる産業医を」では、島悟・東京経済大教授(精神科医)が出演された。

 島氏は、中高年(←年齢の範囲は聞き逃した)の自殺者が年間3万人を超え、交通事故死者の3倍以上に達していること、時間給から成果給への転換が新たなストレス状況を作りだしていることを指摘された上で、ストレスを受けやすい性格として
  • タイプA
  • 対人関係が苦手
  • 言いたいことが言えない
という3つを挙げておられた。もっとも、本来、「性格」というのは、比較的永続的で不変な行動傾向を意味する概念である。「性格を変えなさい」と言うだけなら簡単だが、それができないから困っているのである。時間が限られているせいもあるのだろうが、番組では有効な手だては示されなかったように思う。

 島氏はさらに、会社側の問題点として
  • 安心して相談できる窓口が無い
  • 上司がメンタルヘルスの問題に対応できない
  • 会社がストレスの原因を放置し、減らす努力をしない
を挙げ、産業医や専門機関(EPA)などとの連携の重要性を強調しておられた。しかし、結局のところ、現時点での有効な方法としては
  • ストレスの原因と対策を考えろ
  • 人生を振り返ってみよう
という程度の、トートロジカルな提言に終わってしまったような印象を受けた。精神科医というお立場からはどうしても、問題が起こったあとのケア(あるいはキュア)のほうに関心が向けられてしまうのはやむを得ないことであるが、やはり根本問題としては、労働環境における適切な行動随伴性の配置に尽きるのではないか、そのためには、「行動強化」を原点に置いた効率化議論を進める必要があるのではないかと思った。

7/14追記]番組で紹介された労働省(当時)の「心の健康づくり」の指針(労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課、2000.8.9.)がこちらに保管されていた。ざっと拝見した限りでは、対症療法的な対策であり、「ストレスを減らし生きがいを与える労働環境づくり」までは言及していないように思える。労働基準局の業務範囲としてはやむを得ないところか。
【ちょっと思ったこと】
【スクラップブック】