じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Y.Hasegawa

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7月1日(日)

【思ったこと】
_10701(日)[教育]「大変革期の大学」講演会(前編)

[写真] 池袋のサンシャインシティで行われた「大変革期の大学」講演会に参加した。この講演会は、大学入学情報図書館RENA主催の「第9回 社会に開かれた大学・大学院展〜リフレッシュ教育・リカレント教育をめざして〜」の一環として行われたものであり、会場には、教職員に直接質問ができる個別相談コーナー(39大学・学部)のほか、予備校などの「学ぶ準備相談コーナー」、資料(配布・閲覧)コーナーなど多数のブースが並んでおり、岡大からも文、法、経、理学部および大学院各研究科の資料が展示されていた。

 講演会はそれらのブースと隣り合わせの会場で行われたものであり、
  • 主催者あいさつ:熊谷・実行委員長(元大阪大学学長)
  • 来賓あいさつ:工藤・文部科学省高等教育局長
  • 講演「21世紀の大学像」:有馬・参院議員(元文部大臣、元東京大総長)
  • 講演「大学改革〜大学評価を中心として」:木村・「大学評価・学位授与機構」長(元東京工業大学長)
という錚々たる顔ぶれであった。





[写真]  最初の有馬朗人先生の講演は、「戦後の大学改革2つの失敗」のご指摘から「大学をどうするか」という5つの対策の御提言に至る内容。有馬先生の講演は、昨年7月8日から9日に八王子の大学セミナー・ハウスで行われた「目標見えぬ大学教育-----少子化・大衆化時代の中で-------」でも拝聴したことがあり、ロジックはよく理解できた。以下は、いずれも長谷川の備忘録的なメモであり、誤解している点があるかもしれない点をご容赦いただきたい。

 有馬先生は、まず「1.戦後の大学改革2つの失敗」として、アメリカの言う通りにやりすぎたために生じた2つの問題点を指摘された。
  1. 高専など、ポリテク型の教育機関を総合大学型にした。
  2. 大学や高校への進学率が低く、入学者の質が高かった時に教養部を作った。
このうち2.は、レベルの高い当時の学生に教養教育への不満をつのらせる一方、教養部教員を低く扱うという問題点をもたらした。

 有馬先生は次に、「2.今日の大学危機の原因」として、
  • 大学人の対応が遅く、18歳人口の減少が予測されていたにもかかわらず大学や学部の新設を続けた。
  • 専門高校(工業高校など)への進学率が低下し普通科高校が多様化する中で、入学者確保のため、安易に試験科目少数化など学力低下を招く対応をとった。
これによって、東大を含め1997年頃から学力低下を危惧する声が起こってきたという。

 ではどうすればよいのか。有馬先生は「3.大学をどうするか」において、「大学はもはや『知の殿堂』ではない」としたうえで、5つの対策を提言された。
  1. 2010年には学生数を1992年に6割に削減。
  2. 教養教育の復活今こそ必要。
  3. 工業専門高校の強化。
  4. 教養教育に専念する大学を創ろう。
  5. 生涯学習や社会人教育を重視する大学を創ろう。
 このうち第1の対策は、各大学の定員を一律6割に減らすという意味にもとれるが、それでは経営が成り立たない私立大も出てくるだろう。むしろ、4割の数の大学は何もしなければ確実に消えますよという警告であるように受け止めるべきであろう。

 第2の対策は、昨年7月8日のご講演でも強調されていたことであった。主要教科の成績分布をみると、もともと日本はドイツや米国に比べて分散が少ない傾向にあった。批判されつつも全国統一の学習指導要領(ナショナルカリキュラム)のあることが大きく貢献しているためであるという。これに対して初等中等教育の質がマチマチなアメリカでは、大学入学時にレベルを揃えるための教養教育が必要だったのである。ところが今や日本でも、アメリカ型の教養教育をせざるをえない状況になってきた。それを効率的に進めるためには
  • 同じ授業科目を週に2、3回集中的に実施する必要がある。そのためにはクォーター制も考慮すべき。
  • いかなる事情があろうとも教員の都合による休講は許されない。授業をするにあたっては十分な準備、教え方の工夫、学生による授業評価などが必要。国際会議への講演を頼まれた場合でも、補講や代講の措置がとれなければ断るぐらいの覚悟が大切。


 第3の対策は、新制大学設立時とは逆の発想であり、ものづくりをダメにしないためには徹底的技術教育が必要という理由によるものであった。

 第4の対策は、2番目の木村・機構長のご講演の中でも指摘されたことであり、コミュニティ・カレッジ型の大学への転化をはかるものである。それらの大学は大学院を持たない。

 第5の対策は今回の「社会に開かれた大学・大学院展」の目的にも合致するものであった。

[写真] 有馬先生は最後に、先進国の中でGDPに対する高等教育への公財政支出の割合が極めて低い(写真右)ことを強調され、また「独立行政法人」に関して「私は、大学に行政という名前がつくのは嫌いだ」とはっきり言われ、講演を終えられた。




 以上が私の記憶とメモに基づくご講演の趣旨であった。2番目の木村・機構長のご講演と合わせた全体的な印象として、「大学をどうするか」の根本には、大学進学者のユニバーサル化の中での大学種別化、つまり、少数のエリート大学と、専門技術者養成のための教育機関、さらには教養重視型のコミュニティカレッジといった多様化を図るという発想があるように思えた。

 こうした発想はいっけん、エリートを頂点とした学歴社会の保持を図っているようにも見えるが、年功序列廃止、競争的環境、実力主義重視という今の時代に合わせた全く別の種別化を目ざすものでなければうまく機能しないし、支持を得ることもできないはずだ。今回は質疑応答の時間が設けられておらず質問できなかったが、このあたりの関係についてもう少し知りたいところであった。次回に続く。