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9月23日(水)

【思ったこと】
980923(水)[心理]心理学実験の意義と限界を考える(1)

 日記猿人界でもあまり知られていないのだが、私は今年の夏、「(565)心理学実験のロジックをさぐる」という「論文読み日記」を書いていた。ときおり、登録情報の内容変更によって1行コメントを変えていたものの、手動の更新報告は一度もせず。それでも奇特な方がおられるもので、「foo@kawasaki-m.ac.jp」と「foo@toyama-u.ac.jp」という所から月間得票として各1票合計2票もの励ましをいただいた。

 この「論文読み日記」というのは、日本心理学会が発行する『心理学研究』誌掲載の実験論文について、実験操作の妥当性、結論を一般化する際の問題点などを指摘したものであった。執筆者の中には就職間近の大学院生も居る。また学会誌掲載論文中でも特に優秀なものについては学会賞も貰えるはずであるから、こんなところで批評をされたらたまったものではないと思った方もおられるのではないかと思う。

 ただ、公刊された論文というものは、いついかなる場でも批判に晒され、さらにはメタ解析の資料として活用される宿命にある。もし、相手に失礼だというような気持ちから批判を遠慮するようでは学問は進歩しない。そういう意味では、Web日記とは全く異なった性格をもつと言ってよいだろう。

 さて、この件に関してはこれまでに複数の著者の方から反論をいただいた。いずれの方にも、さっそくお返事を出したのだが、Web上で何らかの批判をする場合、相手方の反論もきっちりと掲載しかなければフェアとは言えない。そこで、急きょフリーの掲示板をもうひとつ借りて、議論の場を作ることにした。もちろん、反論するかどうかは相手方の自由であるし、反論が無かったからといって、私の主張を認めたということにもならない。ま、とにかく建設的な方向で、実験研究の意義と限界について意見を出し合うことができればよいのではないかと考えている。

 ところで、なぜこの時期に私が実験的方法を問題にすることにはそれなりの理由がある。時間が無いので概略だけを述べれば、
  1. かれこれ25年以上実験論文を読み続けてきたが、必ずしも現実世界の人間行動の理解を深める上で有効な情報を提供しているとはいいがたい面がある。
  2. 実験研究一般に言えることだが、1つの実験によってある理論が「実証」されることは原理的にありえない。実験結果というのは、その理論の予測に合致する(もしくは合致しない)一事例を示したものにすぎない。
  3. 自然科学の実験では1つの反証実験によって理論が覆される場合があるが、多数の要因が複雑に関与し、かつ要因そのものが状況に依存すること度合いの大きい人間行動においては、一実験による反証ということさえ難しい。心理学の法則は「この場合には成り立つ、この場合には成り立たない」という形で示されるものが殆どだ。もちろんどういう条件で成り立つのか、成り立たないのかということを細かく調べる必要もあるだろうが、現実から遊離した場面で要因の組み合わせばかりをいじっていると、永久に現実への還元ができなくなる恐れがある。
  4. 注目をあびるような反証実験というのは、理論を覆す力があるために注目されるのではなく、一般常識から予想されないような結果を示すことで驚きを与えるがゆえに注目される場合が多い。
  5. 実験研究に観察・調査研究よりすぐれた点があることは認めるが、その結果についての過大な一般化は禁物。
  6. 心理学には正しい理論とか間違った理論というものは存在しない。少なくとも心理学の研究では、普遍的一般的な理論を構築したり実証したりすることは不可能。これに代えて、人間行動を理解するために有効な概念的枠組みを整理統合すること、必要に応じてその概念的枠組みを活かして操作可能な変数を変更し、人間行動や環境条件の改善をめざすことを研究の目的とすべきである。有意義な実験というのは、(1)枠組み構成に必要な基礎的なデータを得るための実験、(2)「概念的枠組み」という新型飛行機のテスト飛行としての実験、(3)現実への適用の効果についての症例報告、といったものに分類されるものと思う。
  7. 「枠組み構成」もこれまた無限に生成可能であるから、改訂版ばかり作ってテスト飛行を繰り返してもラチがあかない。いったん決めた枠組み(たとえば「行動随伴性」)でとことん現実場面への適用をめざし、そこで乗り越えられない困難にブチ当たった時に新たな構成を考えるという姿勢も必要かと思う。
【ちょっと思ったこと】
  • 台風7号で国宝の室生寺五重塔をはじめ近畿各地の国指定の文化財75件が被害にあったという。上陸直前の中心気圧が940ヘクトパスカル以下ならばこれは大変だと思うけれども、960ヘクトパスカル程度までの中心気圧だとついつい油断してしまう。今回の場合は太平洋高気圧からのエネルギーの補給が通常以上に大きかったとも言われているし、また強風被害の中には竜巻や特定地域特有の強風(岡山では「広戸風」が有名)によるものもある。今回の被害は大きな教訓となるだろう。
  • 9/24朝のNHKニュースによれば、米国大リーグのソーサ選手が2打席連続の本塁打。マグワイヤに並ぶ65号に達したという。こうなってくると、昨日の日記でも書いたマグワイヤの幻の66号の扱いがますます議論になりそうだが、ルールに厳格で審判の権威が確立している大リーグのことだから判定が覆されることはあるまい。
  • 9/24朝、たまたま車を運転中にNHKラジオを聞いたところ、イギリスの看護婦不足の問題をとりあげていた。特に助産婦の不足が深刻であるという。それにしても、日本と同じ物価水準で、看護婦見習いの月収が9万円というのは低すぎる。
【新しく知ったこと】
【夕食後の夫婦の散歩】16日目。妻の歩数で2965歩。
  • 台風一過というのにちっとも雲がとれず、散歩の時間にもごく僅かながら雨がぱらついていた。当分、星の観察はできそうにもない。
  • 話題は、もっぱら妻が近くの幼稚園(昔、息子や娘が通っていたところ)で行われたバザーで起こった面白い出来事。但し日記には書かないという条件つきで話を聞いたため、ここに書くことはできなくなった。残念残念。
【生活記録】
【スクラップブック(翌日朝まで、“ ”部分は原文そのまま。他は長谷川による要約。【 】部分は簡単なコメント。)】