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昨日の日記

5月15日(金)

【思ったこと】
980515(金)[一般]交通死亡事故不起訴問題をめぐって(2)信号検出理論からみた検察の役割
 昨日の日記の続きとして、検察の役割について一般論の範囲で考えてみたい。念のためお断りしておくが、ここに述べることは一般論であって、今回の事故で不起訴となった加害者を犯罪者扱いするものでは決してない。

 さて、一般的にある犯罪が行われ、ある人が起訴された場合、その被告に対して下される裁判所の判断には以下の4通りの可能性があることを指摘しておきたい。表の中の呼称は、信号検出理論から借用したもので、縦が事実として被告が犯人であるかどうか、横は、それに対する裁判所の判断を示している。
 まず、理想的には表の中の「ヒット」の比率が100%になることが望ましいことは言うまでもないだろう。しかし、複雑な状況の中で裁判所が常に正しい判断を行えるとは限らない。結果的に、真犯人を無罪としてしまう可能性、無実の被告を有罪にしてしまう可能性(=冤罪)もある。このほか、無実の被告を無罪であると判断する場合もあるが、無罪になったといっても被告を一定期間拘束し精神的苦痛を与えることになるので、あまり望ましいケースとは言えない。

 被告は有罪被告は無罪
被告は犯人ヒットミス
被告は無実フォールス・アラームコレクト・リジェクション

 上の表で検察が果たすべき役割は、「フォールス・アラーム」の恐れがあったとしても、「被告は有罪」であろうとの主張に徹することにある。これに対して弁護側は「ミス」を発生させる恐れがあっても「被告は無罪」の主張をつらぬく。両者の主張を考慮に入れた上で、「ヒット」と「コレクト・リジェクション」の合計比率が100%になるように努力するのが裁判所の仕事ということになるだろう。
 なお、よく言われる「疑わしきは罰せず」とか「疑わしきは被告人の利益に」というような考え方は、必ずしも上述の理想とは一貫していない。これはおそらく、過去に、無実の被疑者に対して拷問により自白を強要したり、いまわしい冤罪事件が起こったことへの反省から、「フォールス・アラーム」をゼロにすることを最優先することで結果的に「ミス」の比率が高まってもやむをないとの人権擁護上の配慮がはたらいたためであろう。
 さて、昨日の日記
 刑事事件の疑いがあるケースでは、ゼッタイにシロであるという明白な根拠が無いかぎり、検察は、犠牲者の両親の意向に沿って起訴手続を進めていくべきではないか。最終判断は裁判所が行うべきであって、起訴を行うかどうかの段階で検察が裁判所代わりに自主的に情状酌量をしたり「疑わしきは罰せず」のような態度をとるとしたら問題である。
と述べた。これは被告が起訴される前の段階のことを言っているのが、「被告」ではなく「被疑者」(しばしば「容疑者」と呼ばれるが、語義的にも「被疑者」と呼ぶのが正しいだろう)について、上の表と同じ可能性があることを意味している。

 被疑者を起訴被疑者を不起訴
被疑者は有罪ヒットミス
被疑者は無罪フォールス・アラームコレクト・リジェクション

 しかし、大きく異なるのは、ミス、つまり有罪であるべき被疑者を不起訴にしてしまう誤りにに対するチェック機能がきわめて弱いということである。裁判であれば、判決に不服でも控訴や上告をすることができるが、この表では検察審査会に訴えることしか手段が残されていない。といって検察審査会というのは、いわば例外的な事例を扱う機関であるし、現場の実証をするかどうかも不明、審査待ちに長期間を要するというような問題がある。
 そういう意味では、起訴段階では、フォールス・アラームに対する配慮よりもむしろミスを根絶することに重きをおくべきではないかと思われる。もし、検察が、有罪となるべき被疑者を不起訴にするという「ミス」を繰り返していては社会的正義は保たれない。被害者の心情にも癒されない部分が残るだろう。
 仮に検察が全力をつくした上で判決が無罪になったとしても、それによって検察側の責任が問われることはないだろう。不明朗な部分を残したままで不起訴や起訴猶予にするよりは、裁判で決着をつけて無罪とすることのほうが、社会的にも公正感が保たれることになると思う。

 上にも述べたように、検察は予審裁判所ではないのだから、明らかに容疑があるとわかっている被疑者に対して量刑判断のようなものを行うのはおかしい。「被疑者はすでに社会的に制裁を受け十分に反省をしているから」という理由で汚職事件の被疑者を不起訴や起訴猶予にするのはおかしい。そういう情状酌量は、起訴された被告に対して、犯行内容をきっちり事実認定した上で裁判所が行うべきものであろう。記憶は定かでないが、某政党幹部に対する盗聴事件か何かで「警察ぐるみの組織的犯行である以上、一警察官だけの刑事責任は問えない」というような理由で不起訴か起訴猶予になった事件があったと思うが、これなども同様の理由で望ましくないと思う。
【ちょっと思ったこと】
【新しく知ったこと】
【リンク情報】
  • 5月13日の日記に、岡大構内の戦跡(旧日本軍の施設等)めぐりの話を書いたが、日本史の教官がその内容を日本史研究室のHP内で紹介している。直接御覧になりたい方はこちら。BGの関係で「IEの使用をお勧め」となっている。写真のサイズが大きめだが、高画質となっている。
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