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昨日の日記

3月22日(日)

【思ったこと】

980322(日)
[心理]説明を求める心、何でも説明したがる心
 人は、統計データに何らかの意外な変化があるとすぐに説明を求めたがる。マスコミはそれに答えて「専門家」に解説を求める。「専門家」もそう簡単に答は出せないはずなのだが、せっかく指名されたのには断れないと、記者があらかじめ用意した「説明」に相づちをうつ。読者はその「説明」に安心する。そういった図式が、各所に見られるような気がしてならない。

 そういう説明には2つのテクニックがあるようだ。1つは同時期に起こった別の大きな変化に原因を求めること。同じ時期に2つの事が起こると、その一方が他方の原因であると錯覚しやすいからである。もう1つ、その解説者に持論がある場合には、あたかもその持論から当然予想された結果であるようにコジツケを行うこと。それによって自分の信頼性を高めることができるしくみだ。
 実際に行われる説明は、たいがい場当たり的なものであるが、すぐに忘れ去られてしまうので「解説者」が責任を問われることは少ない。マニアックに記録に残しておくと、ずいぶん変な説明があったことに初めて気づく。たとえば1年前にこんな記事があった。
  • 総理府が22日付で発表した「外交に関する世論調査」によれば、中国に親しみを感じる」人は45%に落ち込み、初めて「親しみを感じない」人を下回った。外務省中国課は、「昨年は核実験や尖閣諸島の領有権問題に加え、中国が日米安保共同宣言に懸念を示したり、橋本龍太郎首相の靖国神社参拝に反発したり、日中間がぎくしゃくした年だった」と説明している。[97年2/23朝日新聞記事より長谷川が要約]
  • 卒業旅行シーズンだが、これまで圧倒的な人気を誇ってきた欧米に対し、アジアを目指す学生がぐんと増えている。HISによれば、昨年までのアジア旅行者は2割余りで、欧州、米国に次いで3位だったが、今年は4割を占めダントツの1位という。とくにタイとインドが人気。猿岩石の番組の影響?[97年2/28朝日新聞記事より長谷川が要約]
これはいずれも1年前の出来事であるが、もしこの説明のとおりであるならば、今年は中国に親しみを感じる人が大幅に増加し、アジア旅行者は大幅に減少しているはずである。今年の情報は聞き逃してしまったが、どなたか、追跡データをお教えいただければ幸いだ。

 統計のデータには、ある対象からサンプルを無作為抽出して元の母集団の性質を推定する「標本調査」と、対象全体の変化を実数として把握する「全数調査」がある。「全数調査」で確認された変化は事実そのものを意味するが、それが単一もしくは少数の原因によって生じたという保証はどこにもない。
 仮に、ある教室の学生(15人)の中で灰色の好きな人数が3年前の5人から10人に増えたとしよう。この変化は事実である。いかなる統計的に推測も必要としない事実である。しかしこのことは「世の中が不況になったために灰色が好まれるようになった」という主張の根拠にはならない。増えたという事実は、単なる偶然的な変動によるものかもしれない。より決定論的な観点からみても、同定できないほどの多数の原因が増加をもたらしたのかもしれないのである。繰り返し言えば、「不況の影響」というのは事実に基づいた推論ではない。(不況であるほど灰色の好みが増すという別の統計的根拠が示されない限りは)単なる事後解釈のひとつに過ぎないのである。

 ここで、昨年の7/9のじぶん更新日記(「血液型性格判断」の記事に再録)に書いたことをもういちど引用しておく。
 しかし、実験室の中ならともかく、無限に近い要因が複雑に作用して生じる現実の世界で、たった1つの原因によってある現象が起こったと考えるのは、そもそも無謀ではないか。
 現実の世界では、多数の要因が同じ程度に作用して生じる場合がある。こういうものは、ふつう“偶然に起こった”現象と呼ばれる。“偶然”というのは、物事の最終原因を表す言葉としては必ずしも妥当ではないが、少なくとも、“この出来事は、そんなに単純な原因だけで起こったものではありませんよ”というへりくだった態度を表明していると受け止めることもできるだろう。
 何か物事が起こった時、マスコミはすぐに専門家の説明を求める。おだてられた専門家は、不確かな情報に基づいて、ごく少数の要因だけでそれを説明しようとする。ほんとうは、“これは複雑すぎて一口では説明できません”とか“これは、殆ど偶然に近い出来事です”と言ってもよいはずなんだが...。あの専門家は何も知らないなどと言われるのがこわいからかもしれない。

 そもそも現実の世界では一つや二つの原因だけで違いが生まれることはめったにない。まことしやかな事後解釈に惑わされることなく、分からないことは分からないと言える勇気をもって、いろいろな原因を地道に分析していく姿勢が大切である。
<追記>ちょうどタイミングよく、3/23の朝日新聞朝刊に、新しい事例があったので追記させていただく。[長谷川による要約]
二十二日、防衛大学校で卒業式が行われ四百十七人が卒業。自衛官への任官を拒否したのは十人で昨年を八人下回り、過去十年で最少。防大では「自衛隊の任務が社会的に理解されたことや景気の低迷で民間の就職先が狭まったため」と見ている。
【ちょっと思ったこと】
  • 年度末をひかえて、Web日記を終了もしくは休止される方が、次々と現れている。私がよく拝見している日記の作者だけでも、在米の方1名、関東地方で1名、阪神地方で1名、中四国地方で2名に達している。それぞれご事情があると思われるので無理にお引き留めはしないけれど寂しいかぎりだ。この「じぶん更新日記」自体はまだ1年に達していないが、「スクラップブック」と「彗星日記」を日記猿人に登録したのが昨年の3月26日であった。その時の番号が、565番と566番だから、この1年のあいだに1000に近い日記が新たに登録されたことになる。
【新しく知ったこと】
【リンク情報】
  • きのうの日記で北海道旅行に行くと書いたが、3/29に運が良ければウトロ温泉で流氷が見られることになっている。いちばん正確な流氷の情報は、こちらから得られるのだが、3/20頃から網走-斜里間の流氷が急速に沖合に流れ出し、29日まで見られるかどうか危うい状況となっている。学生時代に眺めたあの風景を子どもたちにも見せてやりたいものだが...。
【生活記録】
【家族の出来事】
【スクラップブック(翌日朝まで)】