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1月31日(土)

【思ったこと】

980131(土)
[一般]国はどこまで個人を守る責任を負うのか(その1)
 新聞記事やネットのニュースサイトなどで、何らかの被害を受けた個人が国を相手に損害賠償を求めるといった記事を見かけることがある。また、個人の被害を防ぐために、何らかの法的規制を強めるべきだとの議論もある。種々の問題が起こるたびに、国はどこまで個人を守る責任を負うべきなのか、あるいは個々人はどこまで国に頼らず自分で自分の身を守る責任をもつべきなのか、と考えさせられることが多い。
 この日記では、これに関連して、豊田商事被害国家賠償訴訟、ネット犯罪、マインドコントロールの問題などについて最近思ったことを、不定期連載で取り上げていきたいと思う。

 第1回目にとりあげる豊田商事事件というのは、もうかれこれ15年近く前の事件であるので、全くご存じない方も多数おられるかもしれない。金の現物まがい商法で約2000億円も集めたという悪徳ぶりもさることながら、その被害者に、善良純朴なお年寄りが多数含まれていたことで当時いろいろ話題になったものである。
余談だが、この悪徳商法の総帥である永野会長は、逮捕される直前に刺殺された。そのさい現場に居合わせた報道陣が、殺害行為を黙認したことについても多くの批判が寄せられた。gooで検索してみたが、こちらに、その経緯が一部紹介されている。ただし、このページ自体は、過度のマスコミ批判を考え直そうとする意図から書かれたものである。

 さて、昨日(1/30)の新聞によれば29日、豊田商事被害の国家賠償訴訟について大阪高裁の二審判決があったという。それによれば、
...被害者の自助努力だけで被害を回避することは困難だったと認定したものの、公正取引委員会や警察庁など関係省庁が規制をしなかったり、強制捜査を見送ったりしたことが「著しく不合理だったとは言えない」などと述べ、国側の責任を全面的に否定した一審判決を支持し、被害者側の控訴を棄却した。[1/30朝日新聞、原文のまま]
となっている。
 この判決後の記者会見で伊多波弁護団長は、「.....きわめて官僚的な仲間擁護の判決で、司法の見識が問われる[1/30朝日、原文のまま]」と話したという。また、判決報告集会で、弁護団常任幹事の吉岡弁護士は「接待漬けになった官僚が社会問題になっている時期に、一方で庶民の救済は認められない。国は消費者保護対策を何もしなくてもよいという皮肉な判決[1/30朝日、原文のまま]」と話したという。

 朝日新聞にはほかに、「父親があなたと同郷なんです」とか「合理化で会社をくびになって」といった同情をさそう言葉に騙されて虎の子の退職金などを巻き上げられた事例が紹介されており、全体として、被害者の立場に同調し、「国は被害者をちゃんと助けてあげるべきだ」という方向で世論を誘導するような論調になっているように思えた。

 この事件では、純朴なお年寄りの「善意」を踏みにじったという点では、詐欺行為を行ったセールスマンたちや彼らにノルマを課した会社幹部は厳罰に処せられるべきであるし、豊田商事に資金を貸し付けた関係機関が被害者に賠償をするのは当然のことであろうと思う。ただ、国が、国民の税金を使ってまで被害者を救済しなければならないのか、そこまで国は個人を守らなければならないのか、多少、考えさせられることがある。

 日本は世界的にみて非常に治安のよい国であると言われる。しかしだからといって、何も注意せずに安全が保たれると考えるのは甘すぎる。例えば、街角に「この住所あてに1万円を送金してください。抽選で10名様に1億円の賞金を差し上げます」などという広告があったとする。その広告を丸々信じて1万円を送金したが、いつまでたっても返事がない。その場所を訪ねたら、すでに会社は移転しており移転先は不明だったとする。その場合に、被害者は国から損害賠償を受ける権利があるか。否であろう。法律の専門家ではないので確かなことは言えないが、常識的に判断して明らかに疑わしく馬鹿げているような詐欺にひっかかったとしたら、それは本人に責任がある。そういうことまで国が賠償するとしたら少々過保護であると言われても仕方があるまい。

 そもそも国が(国民全体の税金を使って)賠償すべき被害というのは、公害病とか薬害エイズのように、何の落ち度もなく善良な生活を続けていた一般市民が、国の対策のまずさから損害を受けた場合に限られるべきである。豊田商事の被害者たちは、最終的には、「資金運用」のしくみを十分にチェックせずに大金を差し出してしまった。暴力団に脅かされたならともかく、自発的に金を差し出してしまったことから派生した損害に対して、税金を使ってまで救済をする必要があるのかどうか、弁護側の主張は、やや説得力に欠ける点があるように思えてならない。

 さらに言えば、「きわめて官僚的な仲間擁護の判決」とか「接待漬けになった官僚」というように官僚を批判すること自体は正しいとしても、それは国家賠償を求めることとは何の関係もない議論である。もしあくまで国家賠償を求めていくとするならば、もう少し別の観点、例えばセールスマンが善良市民をどのようにマインドコントロールしていったのかとか、セールスマンを我が息子のように慕うようなお年寄りまでなぜ出てきたのか、といった点から世論の支持を得るように努力していかないと、ざまー見ろ!欲ぼけジジイ!なんて言われるだけ(←こういう発言はgooでちゃんと引っかかるのだ。但しこれ自体は豊田商事の被害者に向けられたものではない。念のため。)に終わってしまいそうな気がする。
【ちょっと思ったこと】
【新しく知ったこと】
【リンク情報】
【新しく知ったこと】
昨日の日記で取り上げたミールを、19時17分頃北西の空で眺めることができた。もっとも、ミールとなると、予報さえきっちりおさえておけばそれほど珍しくないかもしれない。ただ、地球の影に入って光を失う瞬間は何とも神秘的であり、子ども向けの格好の観察対象であることは間違いない。
【家族の出来事】
【スクラップブック(翌日朝まで)】
※“..”は原文そのまま。他は長谷川による要約メモ。【 】は長谷川によるコメント。誤記もありうるので、言及される場合は必ず元記事を確認してください。
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