小6殺害・遺体切断事件の犯人像をめぐる容疑者逮捕前の推理と、逮捕後の解釈

1997年6月29日更新

※文中、『じぶん更新日記』、『スクラップブック』とあるのは、長谷川のWeb日記からの一部引用であることを示します。
※『スクラップブック』で引用されている新聞記事は、断り書きがない限り、すべて朝日新聞から引用したものです(朝日新聞に限られているのは、たまたま自宅で講読しているため)。
※新聞記事引用部分については、ここから転載せず、かならずオリジナルの新聞記事を参照したうえで、著作権侵害にならぬようご配慮のうえで再引用してください。(長谷川の発言部分については、出典を明記していただければ引用自由です)。
※簡略版はこちら(11KB)にあります。
事件についての一般的な資料は、神戸新聞関連ページにあります。

5月28日(水)
スクラップブック
小6男児殺され、頭部が中学正門に(朝日新聞)
27日朝、神戸市須磨区の中学校の正門前で、男の子の切断された頭部が発見された。24日午後に行方不明となっていた小6男児の遺体の一部であると判明。遺体の口の部分には、警察に対する挑戦的な記述を含む紙片が添えられていた。この近くでは3月に女児2人が殺傷される通り魔事件が起こっている。 】
【昼すぎのテレビで、犠牲者の口に添えられていた紙片には「酒 鬼 薔薇 聖斗」という文字、さらに「私を止めることができるか」と「スクール キル」という文字が書かれてあったと報じられていた。食事後、研究室に戻ったら、さっそく取材の電話が留守電に入っていたが、きょうは午後に会議があるので応対できない。まあ、この時点で謎解きで大騒ぎすることは、犯人の思うつぼだ。犯人逮捕に有益な情報が得られない限りは、視聴率稼ぎに協力することもないだろう。】
<補足2>某マスコミ関係者から教えてもらった『夕刊フジ』の記事によれば、上記の文字は「さかきばら きよと」などと読むのが正解らしい。たぶん、劇画の登場人物か何かだろう。元の文字を「sake oni bara seito」とローマ字に表すと、「sitai sakae nobore」と置き換えができるが、これは事実がわかってからのこじつけにすぎない。これ以上、謎解きで騒ぐことは、犯人を喜ばすだけなので、これでやめにしておこう。なお、これに関連する記事を、じぶん更新日記の5月29日記事に詳しく書いた。

じぶん更新日記
970529(木)
[社会]ミヤサキツトムと酒鬼薔薇聖斗
1989年の夏、私は、当時世間を騒がせていた連続幼女誘拐殺人事件のことで、謎解きを試みたことがあった。M被告が被害者の遺族に遺骨を送りつけた時に付されたメモ(“○○[被害者の名前]、遺骨、焼、証明、鑑定”)をローマ字で表記して並び替えると、M被告のフルネーム(但し、宮崎はミヤサキと読む)が浮かび上がってくるというものであった。この事件は、その後、精神鑑定などをめぐって審理が長引き、4月14日になってようやく一審で死刑判決が出されるに至った。あの指摘が正しかったのか、単なる偶然に対するこじつけなのかは、未だにわからない。
あれから8年が経って、今度は、小6男児が殺され、切断された頭部が中学校の正門前に放置されるという事件が起こった。遺体の口には、警察への挑戦的な文とともに「酒 鬼 薔薇 聖斗」という文字が記された紙片があったという(一部の文は、捜査上の秘密ということで公表されていない)。
8年前のことがテレビ局のデータベースにあるらしく、さっそく取材の電話がかかってきた。しかし、私は、あまり気が進まなかった。真っ先に思うことは、もし自分の子どもがある日とつぜん事件に巻き込まれて、こんな形で遺体が帰ってきたらどういう気持ちになるだろうか、ということだ。8年前の時もそうだったが、犯罪の真相究明と言いつつ「おもしろ半分」にやっているのではないか、という疑問が常にわきあがってきて、スッキリした気分にはなれなかった。
M被告の事件の場合、あの「メモ」がもっと早く「解読」されていたら犯人逮捕につながり、その後の事件を防ぐことができたのではないかと言う人もいた。しかし、私自身はそうは思っていない。あれは、あくまで、事実がわかってからの推定にすぎない。文字の組み合わせは無限にできるので、具体的な名前を事前に割り出すことは、暗号化されたEメイルを解読するぐらいに難しいと思う。
今度のことは、スクラップブックに、いくつか記事を載せているが、「酒 鬼 薔薇 聖斗」に、犯人の名前が織り込まれている可能性は少ないように思える。切断された遺体の場所をほのめかす暗号かと思ったが、どうやら、サカキバラキヨト(セイト、マサト?)というように読み、劇画の登場人物か暴走族に絡む名前を名乗っている考えるのが有力なようだ。いずれにせよ、犯人逮捕に貢献できるような答えが見つからない限り、これ以上の謎解きは犯人を喜ばせるだけかもしれないと思う。何はともあれ、一刻も早く犯人を逮捕し、これ以上の犠牲者を出さぬことが望まれる。

5月30日(金)
スクラップブック
小6殺害事件続報(朝日新聞)
◆アンテナ基地のフェンスの出入り口の南京錠は、4月21日の点検では異状がなかったが、遺体発見当日には新しいものに付け替えられていた。4月下旬に、須磨区南部の金物店に、身長約165cmで30代半ばで、角張った顔の男性が、同一の鍵を購入に来たが、在庫がなく何も買わずに帰った。この男は「小学校のウサギ小屋の錠をつけかえるため」と答えたが、そのような学校は実際にはなかった。◆遺体頭部に添えられていた紙片には、「ぼくは人を殺すのが愉快」と書かれていたことが28日、わかった。
【朝のNHKニュースでは、「スクール・キル」が、「SHOOLL KILL」と間違ったスペリングで書かれていたことを報じていた。もともと文法的にも間違っている。犯人には、M被告のような知的特性はなさそうだ。】


5月31日(土)
スクラップブック
小6殺害事件、紙片の全容公表(朝日新聞)
頭部遺体に添えられていた紙片に記されていた文章の全容が30日、公表された。
さあ、ゲームの始まりです
警察諸君、私を止めてみたまえ
人の死がみたくてしょうがない
私は殺しが愉快でたまらない
積年の大怨に流血の裁きを
SHOOLL KILL
学校殺死の酒鬼薔薇

【この文章だけから犯人の年代や心理を解く、というのは不可能だ。もちろん、犯人が捕まれば、それに合わせるようにこじつけることはいくらでもできるが。言えそうなことは、この犯人は、英語が不得意で、漢字のあて字を使うことに抵抗感を持たない者であろうということぐらいか。】
<補足>6月1日付けの朝日新聞によれば、上記の文章には、別の文言があることが31日に分かった。“警察諸君、私を止めてみたまえ”の冒頭に“愚鈍な”、“私は殺しが愉快でたまらない”と“積年の大怨に流血の裁きを”の間に、“汚い野菜どもに死の制裁を”という文。
<補足>6月7日の朝日新聞によれば、“SHOOLL KILL”は“SHOOLL KILLER”となっており、その上に意味不明のマークがあったという。


じぶん更新日記
970602(月)
[心理]犯人推理、当てにならない“専門家”
何かの犯罪が起こると、マスコミはこぞって精神科医や心理学者や推理小説家の解説を求める。しかし、シャーロックホームズが実在していたならともかく、そんなに正確に推理できるわけがない。解説がもっともらしく聞こえるのは、犯人が捕まってからのこじつけにだまされているためである。
このトリックの仕組みは、次のような手品師の事例で理解できる。ここに、1、2、3の数字が書いてある3枚のカードがあったとする。手品師は、1のカードを左上のポケットに、2のカードを右下のポケットに、3のカードをズボンの後ろのポケットに、予め隠しておく。そして、観客の1人に、「1〜3の数字のうちどれか1つを思い浮かべてください。それは、どの数字でしたか?」と聞く。もし、観客が「2です」と答えたら、右下のポケットを指さし、ここに私の予想したカードがあるので取り出してください、という。もちろん、そのカードには大きく「2」と書いてある。それで、観客は、手品師が、読心術ができるものだと錯覚してしまうのである。
しかし、こういう「推理」は、事実がすべてわかってからのこじつけにすぎない。犯罪事件に関して言えば、犯人が捕まる前に、その正体を細かく推理できてこそ、本物の「説明」と言える。
かつての幼女連続殺人事件の時に、“今田勇子”の名前の“告白文”が送りつけられてきたことがあった。まだM容疑者が捕まっていない段階で、この今田勇子の犯人像を推理した資料がある。この段階では、こじつけができないので、結果的には事実と無関係であったような予測がいっぱい生まれてくる。以下は、著名な精神科医、犯罪心理学者、推理小説家などが、犯人が捕まっていない段階で推理した内容の抜粋である。如何に、いいかげんな推理をしているかがわかる。
きょうのテレビ欄を見たら、午前中の奥様向け番組の話題の大部分が小6殺人事件に関するものであった。新たな犯行の防止や犯人逮捕に結びつく情報提供であれば大いに結構であるが、上記のような、“専門家”による根拠に乏しい「推理」で視聴率を稼ぐような取り組みであるのなら止めてもらいたいところだ。

6月7日(土)
スクラップブック
小6殺人事件、犯行声明の全文公開される(朝日新聞)
神戸新聞社に4日朝に届けられた「犯行声明」全文が明らかにされた。遺体に添えられていた「挑戦状」と同じ文面も同封され、これまで報道されていない内容も含まれていた。◆“酒鬼薔薇聖斗”には“さかきばらせいと”というルビが付されていた。また、この文字は“本命”だと書かれてある。◆“SHOOLL KILL”は“SHOOLL KILLER”となっており、その上に意味不明のマークがあった。◆“報道陣”を“報道人”と誤記したり、くわえるを“銜える”と書くなどの特徴から、ワープロで下書きをしながら、手書きの文章をつくった可能性がある。◆(佐竹秀雄・武庫川女子大文化研究所長)三十代、孤独、見えっ張り、そこそこの読書体験を積んでいて、文章を書き慣れている人物...。/自分の中にもうひとつの自分をつくっている多重人格的な姿が強く出た文章でもある。/[「・・・・・のである」がひんぱんに出てくるが]彼の世界を外にうまく説明しきれないもどかしさ、もっと言えば、非現実的な彼の内なる世界への理解を強要する執拗さが「のである」に濃く出ていると見る。裏返せば、彼の世間と世間との断絶を象徴している部分だ。/三十代の人物と推定するのは、一九八〇年代初めに「ポパイ」などの若者雑誌で流行した「新言文一致体」の影響を受けているように思えるからだ。/一方で、「性」(さが)といった最近の十−二十代の若者があまり使わない表現もある。/漫画、劇画、アニメも含めて読書体験を積んでいるほうだろう。例えば日記などを日常生活で書き慣れているタイプの人物にも見える。◆(井上敏明・六甲カウンセリング研究所長)「国籍がない」「背負っていた重荷」などの表現は、過去に何らかの差別を受けてきたことを物語っている。/「透明な存在」という言葉が示すのは、まさに学校や社会に透明にさせられ、存在するのに注目されない犯人の境遇だ。/犯人のイメージの中では、大きな仕事をしたのにマスコミが認めてくれないという思いがあるのではないか。◆(評論家の芹沢俊介氏)「国籍がない」という部分と「義務教育への復讐」に触れた部分からは、国家や学校というものから一貫して疎外され、いためつけられてきた存在が浮かぶ。強い被害者意識が、攻撃性に添加したのではないか。
【犯人像の推理の問題については、じぶん更新日記6月2日の記事で述べた。上に細かく引用しておいたのは、犯人が逮捕されていない時点での推理(つまり事後的なこじつけができない時点での推理)として、証拠になると考えたからである。もっとも、上記の井上氏や芹沢氏の内容は、抽象的で、誰が逮捕されても大きく外れることはなさそうな推理である。程度の差はあるが、誰でも、自分の存在感の薄さや、自分が無視されていると感じることが一度ぐらいはあるのではないか。なお、私が使っているATOK11では、“ほうどうじん”は決して“報道人”に変換されない。“ほんみょう”も“本命”とは変換されない。たぶん変換効率の悪いワープロを使っているのだろう。】


6月9日(月)
スクラップブック
小6殺人事件、犯行声明文はメディアの影響か陽動か(朝日新聞)
神戸新聞社に送りつけられてきた「犯行声明文」の記述には、人気漫画のタイトルや映画のせりふなどの模倣とみられる表現が数多くちりばめられていた。特に挑戦状は刺激的な言葉の殆どが引用だった可能性が高い。◆「積年の大怨に流血の裁きを」とそっくりの表現が、『少年ジャンプ』で連載された『瑪羅門の家族』の中にある。「大怨」という言葉は、広辞苑などの辞書にも載っておらず、この漫画をまねた可能性が高い。◆(和久峻三さん)犯人は一見二十代のようにも思えるが、今は若者文化と中高年文化が同一化し、『いい年をして』という言葉は通じない。....もっと年は上だろう。
【すでに指摘したが、犯行声明文に真似があるからといって、その作品が犯罪自体を誘発したということにはならない。漫画や映画は莫大な量にのぼるので、偶然であっても何かしら一致する作品が見つかるとは思う。ただ、「大怨」のように通常の辞書に載っていない言葉は、偶然とは言い難い。なお、6/7記事にも記したように、犯人が逮捕されていない時点での推理(つまり事後的なこじつけができない時点での推理)記事は、予測と事後解釈をめぐる授業ネタとして重要であるので、できる限り細かく引用していきたいと考えている。】


6月10日(火)
スクラップブック
小6殺人事件、赤い色にカギ?(朝日新聞)
挑戦状は、最後の2行を除いて赤い文字。神戸新聞社あての声明文も、赤の水性ペンで約1300字がびっしりと書かれていた。声明文を入れた封筒には、流通量の少ない赤い粘着テープがあえて使われていた。犯行に関連のある歩行者専用歩道は赤い塗料を混ぜたアスファルトで舗装されている。◆(日本色彩学会会長・日本福祉大の秋田宗平教授、色彩心理学)赤色には、強い嫉妬や攻撃の念が読みとれる。犯人が常軌を逸して赤に執着しているとすれば、幼少時代からいじめに遭い、守ってくれる人のいない環境で育った人物が他人をねたみ、社会や教育に反撃したい気持ちを秘めたまま成長したなどの状況が想像できる。/感情を盛り上げたい時にも赤を求める傾向がある。赤い文字で長文を書くことで、自らを犯行に駆り立てようとしているとも考えられる。/欧米の言語で赤を表す言葉の語源をたどると多くは「血」に行き着く。「死」を想像させる色でもある。殺人という一線を踏み越えた犯人の心理状態に最も合う色なのだろう。赤への執着心は社会全体への「敵意」とも受けとれる。
【秋田センセイには面識があるので、表だった批判は避けたいところだが、ちょっと勇み足のような気がする。秋田センセイは、色彩心理学の権威ではあるが、犯罪心理学者や臨床心理学者ではなかったはずだ。1つの色への執着がその人の全人生の象徴になると考えるのは大げさすぎる。だいいちこんなことを書かれては、赤の好きな人は異常扱いされてしまう。赤いポルシェにも乗れないぞ。欧米の言語では「赤」の語源は血を意味するというが、語源がどうあれ、血の色が赤い以上、無関係でないことは誰にでもわかる。しかし、日本語の“あか”の語源が血を意味するとは思えない。それに日本では、赤は「紅白」というように、めでたい色とされている。日の丸だって“白地に赤く日の丸染めて、ああ美しい”と歌われているではないか。】


じぶん更新日記
970614(土)
[一般]赤い色は強い嫉妬や攻撃の象徴か?
スクラップブック6月10日の記事で、小6殺人事件の犯人が、赤い色に執着しているのではないか、との記事を紹介した。その中で、“赤色には、強い嫉妬や攻撃の念が読みとれる。犯人が常軌を逸して赤に執着しているとすれば、幼少時代からいじめに遭い、守ってくれる人のいない環境で育った人物が他人をねたみ、社会や教育に反撃したい気持ちを秘めたまま成長したなどの状況が想像できる。”といった色彩心理学者のコメントが紹介されていたが、私には、赤がそんな悪い色だとは思えない。たまたま、子供の本棚に、『世界の国旗』(森重民造著、偕成社、1988年)があったので、国旗の中で、赤い色が何を象徴しているのか、いくつか調べてみた。但し、出版年が古いので、いまでは国旗が変わっている国もあるかもしれない。  たしかに、独立のために流された血を表す意味で赤をつかっている国もあるが、(国旗である以上、当たり前と言えば当たり前だが)、赤を不吉な意味に用いることはない。
 なお、昨日、国語の先生に、日本語の「あか」の意味を尋ねてみた。やはり、これは「あかるい」という所から来ているようで、不吉な意味はなく、逆に、古来からめでたい色、位の高い色として用いられることが多いようだ。

6月13日(金)
スクラップブック
小6殺人事件、景山教授によるプロファイリング(朝日新聞)
国内プロファイリング(犯人像のデッサン)の第一人者とも言える景山任佐(じんすけ)東京工大教授(犯罪精神医学)による推理。◆犠牲者の行動パターンを知る顔見知りである。◆錠が簡単に壊れる材質であることを知る人は少ない。遺体切断に使った凶器の特定も犯人像を描く有力な手がかりだ。犯行声明文の文章の理屈っぽさから、理科系の教育を受けた人間が想定できる。◆週休2日で規則的な勤務についている。/学校の正門に頭部を置いて、その後いったん自宅で着替えをして職場に向かったとしても間に合う、現場から1時間ほどの通勤圏で働いていると思われる。/犯人は友が丘中学と何らかの接点があったと考えられる。◆その他:年齢は33歳±5歳の男性で国籍不明。現場近くに暮らしているか、何らかの土地勘がある。身長170cm以上。独身で1人住まいか、独身で親と同居。深い挫折、喪失体験があって社会の中で抑圧されたという思いの深い人物。
【外れれば御自分の立場も危うくなることを承知で、ここまで具体的に推理するということは勇気のあることだ。犯人逮捕前の貴重な資料となるだろう。】


6月21日(土)
スクラップブック
ネット上に「酒 鬼 薔薇」(朝日新聞)
小6殺人・遺体切断事件の発生前の2月頃に、挑戦状と同じ「酒 鬼 薔薇」の文字がインターネットのホームページにあった、とする証言が寄せられている。このホームページは、大阪市内の接続業者のコンピュータに24歳の会員によって開設され、外部からアクセスした人が約30の空白ページに思い思いの画面を作る仕組みになっていたが、いたずらが多く、開設者の会員は5月末に外部からの書き込みを禁止していた。同会員自身は、「酒 鬼 薔薇」の書き込みには記憶がないと話している。
【こういう情報は、新聞の報道よりもネットのほうが詳しく入手できるだろう。ただ、この種の目撃情報は尾ひれがつきやすく、結果的に特定の個人が中傷される危険もある。今後、関連情報を寄せられる場合には、不確かな記憶に頼ったり、人から聞いた情報に惑わされることのないように、配慮していただきたいと思う。】


6月25日(水)
スクラップブック
小6殺人・遺体切断事件の犯人像(朝日新聞)
◆(江戸川乱歩賞作家で弁護士の中嶋博行さん)声明文では「三つの野菜を壊します」の部分だけ「です・ます調」にしていた。これは不気味さ、残虐さを出すための効果を計算してのことだろう。文章の組立も論理的なことから、高い教育を受けていると思う。/早朝に行動しても怪しまれない環境にいる。独身か、家庭があっても崩壊している。◆(作家の笹沢左保さん)年代は三十歳代と思う。十代や二十代の若者では、声明文にあった「銜(くわ)える」などの感じを使おうという発想を持たないだろうし、逆にあえてこの漢字を使ったところに若さが抜けない三十代ならではの背伸びを感じるからだ。◆「グリコ・森永事件」で関西取材も多かった小林久三さん)単独犯人説が強いが、私はあえて知的レベルの高い複数犯と考える。/...人見知りする**君を誘拐できたのは、警戒心を抱かれにくい女性がかかわっていたからだろう。頭部を正門に置いた男性、声明文を書いた男性、そして女性と犯人グループは少なくとも三人いるはずだ。犯行声明文に関西弁が出ないのは、作者が関西人ではないからだ。
【引用文中、犠牲者の名前は、長谷川のほうで伏字に置き換えた。犠牲者の名前は、それを公表することが文脈上絶対に必要でない限り報道すべきでないというのが私の判断だ。6月13日の記事で、景山教授によるプロファイリングを紹介した。このほか6月9日、10日などにも犯人像についての推理を掲載してある。マスコミ側に、こういう推理発言を特集して視聴率を稼いだり部数売り上げを伸ばそうという意図があるとすれば許せないことだが、犯人が逮捕されていない時点での推理(つまり事後的なこじつけができない時点での推理)記事は、予測と事後解釈をめぐる貴重な資料となるため、私としては今後もできる限り記録していきたいと思っている。】


6月27日(金)
スクラップブック
小6殺人・遺体切断事件、国語学者が声明文分析(朝日新聞)
(国語学者の大鹿薫久・関西学院大教授と半沢幹一・共立女子大助教授による分析)◆書き言葉を多用しながら、口語が混じっている-->「口語の混入は情緒の不安定さを感じさせる」(大鹿氏)。「自分の教養レベルが高いと見せたかっただけではないか」(半沢氏)◆抽象表現が突然出てくる点:「他人に自分の思いを伝えたいのなら、言葉の意味の説明を添えるのが普通だが、自分本位の言葉遣いで人間関係の希薄さを感じさせる」(大鹿氏)◆『ボクが存在した瞬間からその名がついており』:本来は「この」を使うべき部分。「存在」は「出現」でないと意味が通じない。◆方言のにおいはあまりしない。大阪では話し言葉でも書き言葉でも、「出て(い)る」、「して(い)る」の「い」は省きがちであるが、ここでは最後まで省かれていない。ここから、ふだん「してる」の代わりに「しとう」という方言を使う、神戸出身の20歳代後半以上の人と推察できる。◆急に警察への挑戦的な文言がはさまれており、文末の「三つの野菜を壊します」と、文末の「である」調が崩れている:「犯人の興奮と動揺が伝わってくる」(大鹿氏)
【6月25日の記事と同様、予測と事後解釈をめぐる貴重な資料として記録していきたいと思っている。】


6/28夕刻、容疑者の中3逮捕





6月29日(日)
小6殺害・遺体切断事件で中3逮捕(朝日新聞)
スクラップブック
須磨署捜査本部は28日19時5分、近くに住む市立友が丘中学校3年の男子生徒(14)を逮捕した。◆周辺の聞き込み捜査から、猫を殺したことがあったり、「学校に復讐する」と漏らしたりしていたこの男子生徒が事件に関係しているとの見方を強め、28日朝から任意同行を求めて事情を聴いていたところ、犯行を自供。自宅から、犯行に使ったと見られるナイフ、のこぎり、封筒にはったのと同じ赤いテープなどを押収。◆これまでの調べでは、南京錠は「コープ北須磨店で買った」、犯行声明文は「捜査の攪乱を狙った」と供述しているという。◆(小説家の高村薫氏)頭はいいが成績は思わしくなく、受験という現実の壁にぶちあたっていたのではないか。◆(井上敏明・六甲カウンセリング研究所長)容疑者は20歳前後の若者ではないかと思っていた。バーチャルリアリティー時代を反映し、若者の中で、現実に仮想が入り込む人格障害が増えている。その一種だろうか。しかし、本当に中学生の犯行なのだろうか。◆(小林剛・武庫川女子大教授・非行臨床)いまの時代、自己コントロール能力や規範意識が低下している青少年が増えているが、今回は容疑者の中学生が育ちの過程か、義務教育の場で、何らかの深刻な恨み体験がひどく屈折して現れたと見るべきだろう。...うっ積した恨みを、社会に対して鋭角的にアピールしたかったのではないか。◆(推理作家の黒川博行氏)中学生には残虐すぎる犯行のように見えるが、人の死というものにリアリティーがない中学生だからこそ、なし得た犯行ではないか。劇画やアニメに接しすぎて、さも簡単に人の首が切れるような錯覚に陥り、最後まで良心に歯止めがかからなかったのではないか。◆(佐竹秀雄・武庫川女子大教授・国語学)...少なくとも二十代後半と考えていただけに、容疑者が中学三年生とは信じられない。連続幼女殺害事件の被告と読み比べてもレベルは上だと考えていた。サイコミステリーや漫画など超常現象が書かれたものを相当読み込んでいたのだろう。よほど実生活に大きな障害があったとしか考えられない。◆(岩井弘融・東洋大名誉教授・社会心理学)事件後、いくつかの容疑者像が想定されたが、結果として学校に恨みを持ち、土地勘がある青少年ではないかという事件当初に考えられた容疑者像と一致した。
【私自身、この事件が中学生の犯行であるとは信じられない。今の時点では警察の誤りということもありうるし、複数の犯人説も消えたわけではない。事態の推移を冷静にとらえていきたいと思う。私は、容疑者がどうして犯行に及んだのかという心理分析よりも、犯人が逮捕される前の推理と、逮捕後にどのような事後的解釈が行われるかという点に関心をもってきた。逮捕された後では、事実に合致するようにどのようにでもこじつけができるのである。】